法律相談

月刊不動産2017年2月号掲載

土壌汚染と瑕疵担保責任

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 当社が購入した工場用地を引渡し後に調査したところ、売買のときに想定していなかった汚染がみつかりました。現在の状況のまま使用する限りでは、調査や汚染対策工事の義務はありませんが、将来は汚染の調査と対策工事が避けられません。売主に対して損害賠償請求をすることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     将来的に法律上調査および対策工事が避けられない以上は、売主に対して、損害賠償請求をすることができます。

  • 瑕疵担保責任

     売買契約の目的物に瑕疵(欠陥)があり、買主がその瑕疵を知らないときには、売主は買主の損害を賠償しなければなりません(民法第570条、第566条第1項)。この責任が瑕疵担保責任です。法律上、瑕疵のある物を買った場合であっても売買代金は支払わなくてはいけないことから、売主と買主の衡平を図るべく、瑕疵による損害を売主負担としたものです。

     瑕疵とは、物が通常有するべき性質、性能を備えていないことをいいます。当事者の合意および契約の趣旨その他の契約締結当時の事情に照らし、当事者間において予定されていた目的物の品質・性能を欠く場合に認められます(最判平成22.6.1)。

  • 土地売買後に発見された土壌汚染をめぐる裁判例

    • 事案の概要

     研究施設として使用されていた土地を、大手製紙会社Xが一般競争入札により買い受けたところ、土壌汚染対策法の定める規制基準値を上回る特定有害物質が検出されたために、売主の独立行政法人Yに対して、損害賠償を請求し、請求が裁判所で認められたケースが、東京地判平成27.8.7です。

     XYの売買は、契約前に売主Yによる土壌汚染の調査が行われ、ある程度の土壌汚染があることが前提になっていました。しかし、買主Xが引渡し後に調査をしたところ、契約で前提として想定されていた程度を越えた汚染(トリクロロエチレン、水銀、鉛による汚染)のあることが判明しました。いずれも、土壌汚染対策法に定められた基準を超過した特定有害物質にあたります。

     加えて、この売買では、利用の方法からみて土壌汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の市長による確認を受け(土壌汚染対策法第3条第1項ただし書き)、その結果、買主Xは同項本文の定める土壌汚染状況調査の義務が免除されている(したがって、現状のままであれば、特段の土壌汚染対策工事を行わなくても、土地を使用できる)、という事情がありました。

    • 売主が責任を負う瑕疵の範囲

     判決では、まず、売主Yが責任を負う瑕疵の範囲について、『本件契約の当事者間においては、本件契約の締結当時Xにおいて認識し若しくは認識し得た事情から予見可能な程度の汚染又は工場用地等としての利用に当たり支障を生じない汚染については、それらが存在しないことが、本件土地の品質として予定されていたとは認められない。他方、同事情から予見できない程度の汚染であり、かつ、工場用地等としての利用に支障を生じさせる汚染については、本件契約の当事者間において、これが存在しないことが予定されていたものと認められる。したがって、土壌汚染の濃度や分布状況等に照らし、上記事情から予見できない程度の汚染であり、かつ、工場用地等としての利用に支障を生じさせる汚染は、本件不動産の隠れた瑕疵に該当するというべきである』として、引渡し後の調査により判明した水銀、トリクロロエチレン、鉛による汚染が、隠れた瑕疵に該当するとしました。

     また、現状のままであれば、買主Xにおいて土壌汚染状況調査の義務が免除され、土壌汚染対策工事を行わずに土地の利用が可能な点については、『工場用地等としての利用の範囲内において、将来の利用方法の変更(土壌汚染対策法第3条第4項、第5項)又は土地の形質の変更(同法第4条)等がなされることによって、法律上調査及び対策の義務を負うこととなる可能性は避けられないというべきであるから、そのことのみを理由に、上記認定判断が左右されるものではない』として、これが瑕疵担保責任を否定する理由にはならないとしています。

    • 損害額の認定

     裁判所は、損害賠償の額について、『本件土地の現状を維持する限り、本件土地に存する汚染物質を除去する法令上の義務を負うものではなく、同土地の利用の方法の変更により、土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがないと認められなくなった場合や(同法第3条第4項、第5項)、同土地について土地の形質の変更を行い、県知事から調査を命ぜられた場合(同法第4条)において、はじめて、当該汚染物質について対策を講じる義務が生じうるにとどまる』として、水銀、トリクロロエチレン、鉛による土壌汚染を掘削除去する場合の費用合計の50%を損害として認定しました。

     

    図表 土壌汚染状況調査

  • Point

    • 売買において、当事者の合意および契約の趣旨その他の契約締結当時の事情に照らし、当事者間において予定されていた目的物の品質・性能を欠く場合に、瑕疵が肯定されます。
    • 法令上、土壌汚染調査の義務を負わず、現状のままで土地の利用が可能だとしても、将来、利用方法の変更や土地の形質の変更等がなされることがありうる以上は、そのことによって土壌汚染による土地の瑕疵が否定されるわけではありません。
    • もっとも、将来の利用方法の変更や土地の形状の変更等の場合に、汚染物質について対策を講じる義務が生じうるという事情がある場合には、損害額の算定にあたって、この事情が考慮されます。
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