税務相談

月刊不動産2014年3月号掲載

個人が賃貸建物の建築のため建物を取り壊した場合の所得税の取扱い

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

不動産賃貸業を営む個人が賃貸建物の新築のため、既存の建物を取り壊した場合の取壊し損失等に係る所得税の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.賃貸建物を取り壊した場合の取壊し損失等の取扱い

    (1)取壊しにより生じた損失等の必要経費算入賃貸建物の取壊しや除却等により生じた損失(以下「資産損失」といいます)の金額については、その損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。この場合において、賃貸建物の取壊し時における不動産の貸付けが事業的規模であるのか、事業と称するに至らない規模(以下「業務的規模」といいます)であるかどうかにより、必要経費に算入できる金額が次のとおりに異なります。

     ①その貸付けが事業的規模の場合

     その資産損失および取壊しに要した費用の全額が必要経費に算入されます。不動産所得の金額の計算上、控除しきれなかった損失の額は、給与所得など他の所得の金額との損益通算および青色申告の場合には純損失の繰越控除の適用を受けることができます。

     ②その貸付けが業務的規模の場合

     その資産損失の額のうち、その取壊し年分の不動産所得の金額(その資産損失を控除する前の金額)を限度として、必要経費に算入されます。ただし、取壊しに要した費用は資産損失ではないので、その貸付けの規模にかかわらず、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用として全額が必要経費に算入できます。

    (2)損失の金額の計算の基礎とされる資産の価額

     不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入される賃貸建物の資産損失の額は、その賃貸建物の未償却残額を基に計算されます。この場合の未償却残額とは、賃貸建物の取壊し等の日にその賃貸建物の譲渡があったものとみなした場合における、賃貸建物の取得費とされる金額とされます。賃貸建物など減価償却資産を年の中途で譲渡した場合、その年分の償却費の取扱いは納税者が譲渡所得の金額の計算上、取得費に含めるか、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入するかのいずれかを選択できます。この取扱いは、資産損失の金額の計算においても同様に適用されます。

     したがって、不動産所得の金額の計算上、賃貸建物に係る資産損失の計算の基礎とされる未償却残額は、納税者の選択により、次の①または②の取扱いとなります。

     ①その賃貸建物に係る償却費を不動産所得の必要経費に算入した場合

     その賃貸建物の取壊し日時点における未償却残額となります。

     ②①以外の場合は、

     その賃貸建物の取壊し年の前年12 月31 日時点における未償却残額となります。

    (3)「事業的規模」に該当するかどうかの判定基準

     前述(1)において、不動産の貸付けが事業的規模かどうかは、社会通念上、事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより、実質的に判断されます。

     ただし、建物の貸付けについて、次のいずれかの基準に当てはまる場合は、原則、事業として行われているものとして取り扱われます。

     ①貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10 室以上であること。

     ②独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

    2.自宅を取り壊した場合の取り壊し損失等の取扱い

    (1)取壊し損失等の必要経費不算入

     自宅として使用していた建物の取壊しは、家事上の資産を任意に処分したものと考えられます。したがって、その取壊しが賃貸建物に係る事業または業務を開始するためであっても、その取壊しによる損失の額及び取壊しに要した費用の額は、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することができません。

    (2)取壊し損失等の新築建物の取得価額不算入

     自宅の取壊しによる損失および取壊しに要した費用の額は、賃貸建物の建設等のために要した原材料費、労務費および経費の額や、賃貸建物を業務の用に供するために直接要した費用の額に該当しないため、新築した賃貸建物の減価償却計算の基礎とされる取得価額に算入できません。

    3.賃貸併用住宅を取り壊した場合の取壊し損失等の取扱い

     賃貸併用住宅の取壊し損失等において、業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を建物の床面積による按分等で明らかに区分することができる場合には、その部分に相当する損失等の額は不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。

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