労務相談
月刊不動産2026年3月号掲載
会社のSNS対策とモニタリング
特定社会保険労務士 木村彩(社会保険労務士法人 大野事務所)
Q
休憩中に撮影した職場の写真を、従業員がSNS上に投稿しているのを見つけました。写真には、PC上の個人情報が映っています。写真の削除を求めることに問題はありますか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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休憩中の私的な投稿であるとはいえ、会社には施設管理権があることから、所有する施設内の写真の削除を求めることには合理性があると考えられます。
また、労働契約には、従業員が企業秩序を順守する義務を負うことも包括的に含まれます。会社の社会的評価を下げるような投稿は、企業秩序を損なうことから、就業規則に基づく懲戒処分の検討の余地があります。 -
会社の施設管理権
判例によれば、会社はその事業の円滑な運営のために企業秩序を守り、維持する権限を持っています。そこには、人的要素だけではなく、所有する施設や所有物の管理権も含まれます。このため、会社の制服を着用したまま撮影することや、職場内を背景にして撮影することを禁止することは可能であると考えられます。
お客様が映り込むことや営業上の秘密が漏れてしまうリスクがあることからも、職場内での撮影を禁止することには合理的理由があるものといえます。 -
SNSの私的利用を制限できる場合
従業員個人の就業時間外のSNS投稿は、個人の思想・心情や表現の自由の領域に属する問題であり、会社として規制を行うにあたっては、慎重に検討する必要があります。従業員が就業時間外にSNSの投稿をすることや、その投稿を見ること自体を規律違反として懲戒処分の対象にすることは、会社の懲戒権の濫用であり、適切ではありません。
一方で、従業員は、労働契約に包括して企業秩序を順守すべき義務を負うとされています。したがって、職場外で行われた業務遂行に関係ない行為であっても、企業秩序を損なう場合や企業の社会的評価の低下につながる場合には、制限することができると考えられます。あくまでも会社の社会的評価・信用に及ぼす影響の程度が重大な場合に、「従業員のプライベートの尊重」に優先して懲戒処分が認められることになります。
たとえば、就業時間外に社宅において、会社を誹謗中傷するビラを配布した行為を理由とするけん責処分が有効とされた判例があります(関西電力事件最一小判 昭58.9.8)。判断の理由は、従業員の会社に対する不信感を醸成し、企業秩序を乱すおそれがあるものであることが認められたからです。 -
SNSに対する従業員教育の重要性
SNSは、誰でも気軽に文章・写真・動画を投稿することができ、情報の拡散力が高いツールです。不適切な投稿があった場合は、削除しても、一度拡散したものや悪いイメージはすぐには元に戻りません。そのような投稿を未然に防止するため、従業員教育を行うことはとても重要な対策です。
具体的な対策としては、以下の方法が考えられます。
①入社時に概要を説明して誓約書にサインをもらう
②入社時教育を行う
③在職中の従業員への教育を行う
定期的にSNSに関して注意喚起することはもとより、会社の理念や考え方を伝えることで、会社の評判を落としたくないという思いを持ってもらうことも大切です。 -
懲戒処分する根拠としての就業規則への記載
不適切な投稿を未然に防ぐため、従業員教育を行うことの大切さをお伝えしましたが、故意に評判を落とすような投稿があった場合や、悪質な投稿があった場合には、会社として懲戒処分を検討することになります。従業員に周知した就業規則の懲戒処分事由に該当すれば、処分の対象です。
具体的には、故意・重過失により会社の信用を損なわせることや、損害を与えるような言動をしてはならないなどの、服務規律違反を理由とした懲戒処分を科すことが検討されます。あるいはSNS利用規定を作成し、これに反する行為を行った場合に処分の対象とする場合もあります。 -
モニタリングの必要性
従業員への教育や規定整備といった予防策だけでは、リスクの完全な排除はできません。また、SNSや社内システム上で問題が発生した場合、対応が遅れるほど会社の信用や情報資産への影響が大きくなります。そこで、リスクを最小化するため、問題を早期に把握し、迅速に対応することができるモニタリング体制の構築が必要です。
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貸与したパソコンやスマートフォンのモニタリングの是非
顧客情報を他社に流出させている疑いのある従業員のパソコンをモニタリングすることは可能でしょうか。先ほどお話ししたとおり、会社が貸与するパソコンには、会社の施設管理権が及びます。したがって、業務上の必要性が高い場合には、従業員のプライバシーよりも情報保護を優先し、貸与パソコン等をモニタリングすることは認められると思われます。
会社で貸与したパソコンで、私的なやり取りをするということは、従業員がプライバシーを放棄しているという見方もできます。ただし、業務上の必要性もないのに、無断で従業員のパソコンをモニタリングすることは、権利濫用とみなされるリスクがあります(図表)。たとえば、会社で貸与した携帯電話のナビシステムにより、労務提供のない時間帯にまで居場所確認を行うことは、労働者のプライバシーを侵害する不法行為であるとされた裁判例があります(東起業事件・東京地平24.5.31) 。
過度な監視は、従業員に「会社から信用されていない」という不信感を与え、モチベーション低下につながる恐れもあります。 -
従業員への事前周知
従業員との紛争回避や個人情報の利用目的の特定という観点から、以下の3点を事前に周知しておくことが望ましいといえます。
①貸与パソコン・スマートフォンの私的利用の禁止
②業務上の必要性があるときは、貸与端末のデータを調査・モニタリングすること
③会社に関する情報(映像含む)を無断で活用しないこと
