労務相談

月刊不動産2023年1月号掲載

企業における管理職と労基法上の管理監督者の違い

野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所パートナー社員)


Q

 弊社では部長、課長、係長を管理職としております。管理職社員については、労働時間管理を行っていないことから、時間外・休日労働を行った場合でも割増賃金は支給しておりませんが、法令上問題がありますでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     労基法で定めている労働時間規制(時間外・休日割増賃金支給)の対象外となる「管理監督者」とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされていることから、課長、係長であっても労務管理上の職務、権限を有していない場合は、管理監督者に該当せず、割増賃金の支給対象となります。

  • はじめに

     労働基準法(以下、労基法)第41条では、「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者(以下、管理監督者)については、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」としていることから、労基法に定める管理監督者であれば、労働時間規制の対象外となり、時間外・休日割増賃金も支給対象外となりますが、管理職の地位にある者すべてが管理監督者に該当するわけではありません。

  • 管理監督者の判断要素

     管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものとされております。また、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限るとされており、具体的には以下の要素を総合的に考慮のうえ該当性を判断するものとなります。

    ①職務と責任
     労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあることから、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務・役割を有していなければなりません。また、経営者と一体的な立場にあるというためには、経営者から重要な責任と権限を委ねられている必要があります。自らの裁量で行使できる権限が少ない、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ、また上司の命令を部下に伝達するだけに過ぎないような場合、管理監督者性を否定される方向に働きます。

    ②勤務態様
     時を選ばず経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にあることから、勤務態様について厳格に管理されている場合、管理監督者性を否定される方向に働きます。

    ③賃金等の待遇
     その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされている必要があります。一般労働者が一定の時間外労働を実施した際、年収等で容易に逆転されるような賃金水準である場合、管理監督者性を否定される方向に働きます。

  • 賃金控除の可否

     遅刻・早退・欠勤・休業等が発生した際、賃金控除を行うことが管理監督者性を否定するものとなるのか、問題になります。

    ①遅刻・早退控除の可否
     遅刻・早退を理由に賃金控除を行った場合、出退勤時刻を自ら決定する権利、つまり労働時間に対する裁量がないものと判断される場合があります。遅刻・早退控除の有無を考慮する裁判例が散見されますので、遅刻・早退控除は行うべきではありません。

    ②欠勤・休職控除の可否
     管理監督者は「労働時間・休憩・休日」の規定が適用されませんが、出勤の義務まで免除されているとは言い難いことから、欠勤等が発生した場合には、原則として賃金控除することが可能です。ただし、休日労働を行っ場合でも休日割増賃金を支給しなくてよいことを考慮すると、数日の欠勤が発生したからといって直ちに控除するというのも不合理ですので、長期欠勤や休職・休業が発生した場合に限り、賃金控除を行うべきものと考えます。

  • 適用される措置と除外される措置

    ①割増賃金
     「労働時間、休憩、休日」に関する労基法の規定が適用除外されることから、時間外・休日労働を行ったとしても割増賃金を支給する必要はありませんが、深夜割増に関する規定は除外されていないため、深夜勤務における労働時間把握は必要となります。また、振替休日や代替休日(代休)といった措置についても適用する義務はなく、休日の振り替えを行わなかったとしても割増賃金を支給する必要はありません。

    ②休暇、休業
     「休暇、休業」に関する規定は除外されないことから、年次有給休暇を付与する必要があります。また、付与日数が年10日以上である者を対象とした年5日以上の取得義務の対象にもなります。子の看護・介護休暇、産前産後休業および育児介護休業についても適用されます。

    ③育児・介護のための措置
     「労働時間、休憩」に関する規定が適用除外となることから、育児・介護のための短時間勤務制度、所定外労働の免除、時間外労働の制限および育児時間については、認める必要はありませんが、深夜業の制限については、請求があれば認める必要があります。

    ④健康確保のための措置
     一般職のように日々の始業・終業時刻を適正に把握する必要はありませんが、健康管理を目的とした「労働時間の状況の把握」が求められます。労働時間の状況の把握とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものであり、原則として、タイムカード、PC等の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)等の客観的な記録により、労働日ごとの出退勤・入退室時刻等を把握する必要があります。

  • おわりに

     前述のとおり、労基法上の管理監督者は一部の管理職に限定されますが、各企業が独自の解釈により自社の管理職に適用している実態が見受けられます。これに対し、当事者である管理職社員から非該当性(未払い賃金、時効3年)について訴えられた場合、多くの企業で該当性を否定されるものと思われますので、十分な労務管理上の役割・権限を付与し、その地位に相応しい処遇に改善するなど、対象範囲の見直しが求められます。

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