法律相談
月刊不動産2025年5月号掲載
仮登記
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
仮登記とはどのような登記なのでしょうか。また、どのような場面で利用されるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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仮登記とは、登記をするための手続き要件または実体要件を具備していない場合に、登記の順位をあらかじめ保全するためになされる登記です。①売買予約、②農地の売買、③仮登記担保の設定の場面などで利用されます。
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仮登記の意義
不動産の権利について、物権変動は生じているが登記(本登記)の手続きができない場合( 手続き要件不備)、または、物権変動は生じていないが、物権変動の請求権について将来なされるべき登記の順位をあらかじめ保全するため必要がある場合(請求権保全)に、それぞれ将来なされるべき登記(本登記)の順位をあらかじめ保全するためになされる登記が、仮登記です(不動産登記法〈以下、単に条文を示すときは不動産登記法の条文〉105条1号・2号)。仮登記のままでは権利の順位を保全する効力はありませんが、仮登記が本登記に移行した場合には、本登記移行の時点ではなく、仮登記を行った時点での順位が確保されます(順位保全効。106条)。
仮登記には、1号仮登記(105条1号)と、2号仮登記の2種類があります(105条2号)。仮登記の効力としては、2種類の仮登記に違いはありません。 -
仮登記の種類 (1号仮登記と2号仮登記)
(1)1号仮登記(条件不備の仮登記)
1号仮登記は、実体的な物権変動は生じているけれども、権利に関する登記の手続き要件を具備しない場合の仮登記です。条件不備の仮登記ともいわれます。
登記申請にあたって申請情報と併せて提供しなければならないとされている情報(22条、25条9号)のうち「登記識別情報又は第三者の許可、同意若しくは承諾を証する情報」(不動産登記規則178条、不動産登記法2条14号、不動産登記令7条1項5号ハ)を提供することができないときに、1号仮登記をすることができます。登記識別情報(または登記済証)を紛失して提出できない場合や、第三者の承諾が必要な場合であって、承諾は得ているもののこれを証明する書面などが添付できない場合などに、1号仮登記が利用されます。
登記義務者の印鑑証明書の提供ができない場合や、登録免許税の調達ができない場合には、仮登記は認められません。(2)2号仮登記(請求権保全の仮登記)
2号仮登記は、実体的な物権変動は生じていないけれども、物権変動に関する現在または将来の請求権が存在する場合において、将来なされるべき登記の順位をあらかじめ保全するための仮登記です。請求権保全の仮登記ともいわれます。2号仮登記には、将来の日付を効力発生の始期とした始期付所有権移転仮登記、売買代金完済時に所有権が移転するとの付款を付けた条件付所有権移転仮登記などがあります(昭和58年3月2日付民三第1308号民事局第三課長回答)。
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仮登記が利用される場面
①売買の予約
売買の予約においては、予約契約成立の時点では所有権は移転していませんが、本契約締結または相手方の予約完結権の行使(民法556条)によって売買の効力が生じ、所有権が移転します。そこで売買の予約のときに生じた所有権移転請求権を保全しておくことにより、将来の本登記の順位を保全することが可能です。
②農地の売買
農地の売買には、都道府県知事等の許可が必要であり(農地法3条1項、5条1項)、許可を得ないでした売買はその効力を生じません(農地法3条6項、5条3項)。そこで、都道府県知事等の許可を得るという実体上の要件を具備するまでの間の権利保全のために、仮登記が利用されます(昭和37年1月6日付民事甲第3288号・3289号民事局長回答)。
③仮登記担保の設定
金銭を貸し付ける際に、貸金を返済できなければ不動産を債権者に売却する(または代物弁済する)という約定が取り交わされる場合があります。この場合、不動産の売却(または代物弁済)については、不動産に仮登記を付けるという方法によって担保権を確保することになります。このような担保の設定方法が仮登記担保です。もっとも、仮登記担保は、不動産を担保として資金調達をする場合に広く利用される方法ですが、債権者の暴利行為につながりかねません。そのため、仮登記担保契約に関する法律(仮登記担保法)が制定され、債権者は、清算期間が経過したときの土地等の価額がそのときの債権等の額を超えるときは、その超える額に相当する金銭(清算金)を、債務者等に支払わなければならないものとされています(仮登記担保法3条1項)。
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まとめ
土地や建物に仮登記がつけられることはめずらしいことではありませんが、不動産売買に関与する機会の多くない方には、仮登記のついた登記簿は、なじみが薄いかもしれません。しかし、仮登記が付けられたままで売買が行われると、買主は思わぬ不利益を被ります。不動産取引の安全性確保は宅建業者の使命であり、不動産登記簿を正しく読み解くことは宅建業者の責任です。宅建業者は、買主や借主の利益を保護するために、仮登記について正しく理解しておかなければなりません。