法律相談

月刊不動産2014年12月号掲載

ベランダでの喫煙による上階住民への健康被害

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

私はマンションの5階509号室に住んでいます。階下の4階409号室の住民がベランダでしばしばたばこを吸っており、たばこの煙が私の部屋に流れ込んでくるため、体調を崩してしまいました。喫煙をやめるよう申し入れても、聞き入れてくれません。損害賠償請求をすることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.回答

    階下の住民が申入れに応じず、喫煙を続け、そのために体調を崩したということであれば、損害賠償請求をすることができます。

    2.健康被害

    たばこは健康に害悪を及ぼします。喫煙者自らの健康を害するだけではなく、煙によって、周りの人々の健康にも影響を与えるのであり、主流煙(喫煙者が吸い込む煙)よりも、副流煙(たばこの先から出る煙)のほうが、より有害物質を多く含んでいます(タールは3.4倍、ニコチンは2.8倍など)。社会の制度としても様々な対応がなされており、最近では、公共の場ではほとんどたばこを吸うことはできなくなっています。

    もっとも、たばこには、喫煙者に精神的な安定をもたらすというプラスの効果もあります。たばこが健康に悪いとはいえ、そのことを了解した大人であれば、コンビニなどの店舗で購入することが可能であり、自宅では喫煙をすることができます。

    3.裁判例

    しかし、自宅で喫煙するにしても、ほかの人の迷惑に対する十分な配慮が必要です。名古屋地裁平成24年12月13日では、次のとおり、喫煙者Yのベランダでの喫煙のため、上階の居住者Xが、ストレスを感じたり、帯状疱疹を発症するなどの健康被害を生じたケースにおいて、XのYに対する損害賠償請求を肯定しました。

    『自己の所有建物内であっても、いかなる行為も許されるというものではなく、当該行為が、第三者に著しい不利益を及ぼす場合には、制限が加えられることがあるのはやむを得ない。そして、喫煙は個人の趣味であって本来個人の自由に委ねられる行為であるものの、タバコの煙が喫煙者のみならず、その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れのあること、一般にタバコの煙を嫌う者が多くいることは、いずれも公知の事実である。
    したがって、マンションの専有部分及びこれに接続する専用使用部分における喫煙であっても、マンションの他の居住者に与える不利益の程度によっては、制限すべき場合があり得るのであって、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、喫煙を継続し、何らこれを防止する措置をとらない場合には、喫煙が不法行為を構成することがあり得るといえる。このことは、当該マンションの使用規則がベランダでの喫煙を禁じていない場合であっても同様である。

    そこで検討するに、Yがベランダで喫煙をした際に出るタバコの煙がマンションの直上階にあるXのベランダに上り、Xの自室内に入ることは十分にあり得ることがらであるところ、Yがベランダで喫煙していた量は、平成22年6月以降の平日午前の5時間弱の間に5、6本であって、祝祭日、あるいは、平成22年5月以前のYが職に就いていない時期には、これを大きく上回るものと推認されることからすると、Yの喫煙によりXの室内に入るタバコの煙は、少ないとは言えない。

    他方、本件マンションは居住用マンションであって、Y自身、ベランダでタバコを吸いながら景色を眺めることを好んでいたことからすると、本件マンションの立地は、日常的に窓を閉め切り空調設備を用いることが望まれるような環境ということはできず、したがって、Xが季節を問わず窓を開けていたことをもって、Xに落ち度があるということはできない。

    このような状況において、Xは、平成22年5月2日ころには、自分が喘息であって、タバコの煙によって強いストレスを感じていることを記載して、ベランダでの喫煙のみをやめるようYに求め、平成23年4月ころにも重ねてベランダでの喫煙をやめるよう、直接、Yに告げ、管理組合をして回覧又は掲示もさせているのであり、そうであるとすると、遅くとも、平成23年5月以降、Yが、Xに対する配慮をすることなく、自室のベランダで喫煙を継続する行為は、Xに対する不法行為になるものということができる』。

    なお判決では、YがXよりも先に居住していた点についても、『XがYよりも後に本件マンションに居住したことをもって、Xが自らタバコの煙が上がってくるような場所を選んで居住したものということはできない』として、損害賠償請求を否定する理由とは認めませんでした。

    4.まとめ

    宅地建物取引業は、人々の豊かな生活を支えるものです。生活環境を巡る問題には、十分にアンテナをはり、顧客の利益を損ねないように配慮しなければなりません。喫煙も、日々の業務の中で、配慮を欠かしてはならない問題です。

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