賃貸管理ビジネス

月刊不動産2019年9月号掲載

インターナル・マーケティングで従業員満足度アップ!

今井 基次(オーナーズエージェント株式会社 コンサルティング事業部部長)


Q

従業員のモチベーションが低く、管理を任されている物件のオーナーから「従業員の表情が暗い」と言われてしまいました。オーナーとの接点が多い管理部門は離職率が高く、なかなか人材が定着しません。モチベーションを上げるためには、どのような方法がよいと思われますか?

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     従業員のモチベーションが低い理由は、いくつか考えられますが、誰もが自分がやっている仕事を「褒められたい、認められたい」と思っています。賃貸管理の仕事は割と地味な作業も多く、なかなか評価されていないのではないでしょうか。従業員1人ひとりの仕事の存在感を高める場を作り、お互いを讃えあえるイベントを行ってみるとよいでしょう。

  • 1. 商品と顧客をつなぐ管理会社の従業員

     「マーケティング」と聞くと、顧客や見込み顧客に自社商品やサービスを売り込む手法をイメージするはずだ。ただ、いくら顧客に認められる商品やサービスを作ったとしても、商品と顧客をつなぎ合わせる「管理会社の従業員」が仕事や働きがいに満足していなければ、オーナー満足度が上がらないし管理戸数も増えないだろう。従業員満足度が上がれば、モチベーションアップとともにスキルアップや顧客サービス向上につながる。すると、顧客満足度が向上することになり、口コミの拡大、リピート率アップ、企業に対する顧客ロイヤルティ(愛着心)の高まりにより、企業の業績が高まっていくこととなる。つまり、従業員満足度を高めることが、結果として業績アップにつながることになる。

  • 2. 業務や実績が評価されにくい管理業務

     そこで重要になるのが従業員満足度を高める施策「インターナル・マーケティング」という考え方である。管理会社の日常業務は、「できて当たり前」といわれる仕事が多く、例えば家賃の集送金業務は、納期は決まっていて、送金明細の表記は1円たりとも間違えるわけにはいかない。また入居者からのクレーム対応は、緊急性が高く手間もかかるうえ、理不尽に怒られるようなこともある。たとえ迅速な対応ができたとしても、「できて当たり前」と思われがちで、感謝されることはあまりない。それどころか対応や数字にちょっとしたミスがあれば、すぐにオーナーや入居者からクレームがくる。つまり、褒められることが少なくて、叱られることが多いため、モチベーションが高まりにくい環境にさらされているのだ。営業マンのように、数字が目に見えて実績として評価される「花形」とは違い、業務や実績が評価されにくい管理業務においては、従業員は疲弊してしまうばかりでなく、離職率が高まって結果として企業の業績が安定しなくなる。

  • 3. イベントやプレゼンを行ってモチベーションを上げる

     そこで従業員が生き生きと働ける仕組みづくりやイベントが重要となってくる。当社では1年に1回、各自が行ってきた仕事の取り組みを自慢するコンテスト「Good Job Awards」(写真)を開催している。まず部署で予選を行って、1人10分間の持ち時間でプレゼンテーションを行う。最終的に部署の代表が選出されて決勝戦が行われる。決勝戦はライブハウスを貸し切って行い、まるでお笑いグランプリのように、音楽や照明で登壇者とオーディエンスをあおって盛り上げる。部署の代表は、同じ部署のスタッフの応援を受け、限られている時間でプレゼンテーションを行う。優勝者には、10万円または毎年アメリカで行われているIREM(米国の不動産団体)の年次カンファレンスに、会社の幹部とともに参加する権利が与えられる。もちろんその際の費用は会社持ちだ。普段、あまり注目されていないようなバックヤードの部署が、自分が行っている取り組みを社員全員の前で発表し、一定の評価をされることは大きなモチベーションに変わる。ちなみに昨年の優勝者は事務方の従業員で、自社のサブリース物件の空室期間を短縮することが会社の収益になることを認識して、申込みから入居審査の期間を短縮し、会社の利益に貢献したという内容であった。事務方のスタッフの取り組みは、このようなプレゼンテーションの機会がなければ、あまり目を向けられることはなかっただろう。

  • 4. 部活動に参加して生き生きと働く

     また、当社にはそれ以外にも部活動制度というものがある。1つの部活動に3つ以上の部署の者が参加すること、部活動をブログやソーシャルメディアで発信することが条件で、1年に1回、1人あたり5,000円の活動費が会社から支給される。マラソン部、登山部、カレー部、涙活部(みんなで映画を一緒に見て涙を流す)など、8種類ほどの部活動がある。もちろん複数の部活に参加してもよい。従業員同士が「共に遊ぶ」ことで、全体の雰囲気も良くなる。限られたメンバーだけではなく「オープンな遊びの場」を会社が提供することで、従業員も生き生きと仕事に向かうことができる。ちなみに涙活部から社内結婚に発展したカップルまで誕生したのには、少し驚いた(笑)。従業員が生き生きと働き、満足度が高まれば、自ずとモチベーションが高まり、従業員満足度が上がっていく。給与や報酬のような外発的モチベーションではなく、心のうちから沸き起こる内発的モチベーションを作り出させる環境こそ、結果として企業の業績につながっていくのではないだろうか。

今回のポイント

●商品と顧客をつなぎ合わせる「管理会社の従業員」が仕事や働きがいに満足していなければ、オーナー満足度が上がらず管理戸数も増えない。
●従業員満足度が上がれば、モチベーションアップとともにスキルアップや顧客サービス向上につながる。
●イベントの開催、仕事の取り組みを発表するプレゼンテーションや部活動の実施などで、従業員が生き生きと働ける仕組みづくりをする。

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