賃貸管理ビジネス

月刊不動産2022年1月号掲載

「空室率」3つの定義の使い方

今井 基次(株式会社ideaman 代表取締役)


Q

管理業務ばかりしているとあまり投資分析に触れることがないのですが、最近は空室が増えているため、管理物件や周辺物件の空室率を調査する機会が増えてきました。ところが「空室率」の定義が曖昧なため、せっかく調べたものが生かしきれていません。どのような数字をどのような状況で用いるのかを教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     空室率の定義は大きく3つに分かれます。それぞれのタイミングで用いる数値が変わってくることにも注意が必要です。特に、共同住宅を購入したり新築する前にはどれくらいの空室率を想定するのかで、リスク許容度が変わるため、しっかりと理解を深める必要があります

  • 1.はじめに

     賃貸経営をしていく中で、一番怖いのは「空室リスク」です。そこでしっかりと把握しなければいけないのが、空室率の考え方です。単純に「空室率」と言っても、そこから導き出される数値は、計り方によって変わってきます。空室率には大きく分けて3つの定義があります。「現時点を基準とした空室率」「稼働日数を基準とした空室率」「実稼働家賃の空室率」です。目的や状況に合わせて適切な「空室率」を使い分けます。

  • 2.現時点の空室率

     たとえば、現時点で10戸中9戸が入居していれば空室率10%(入居率90%)となり、こうした「現時点の空室率」算定はあくまで「今」を切り取った数字なので、主に物件を購入する前の市場調査時に利用します。多くの統計調査は、この数値が用いられているはずです。購入予定物件が1 0 戸中空室1戸で空室率1 0%だった場合でも、エリアの類似物件を200戸調査し、合計の空室が1 0 戸であれば、エリアの現時点の空室率は5%と算出できます。ということは、競合物件とよほど差がない限り、その購入予定物件も5%程度の空室率で運用できると考えることができます。
     注意したいのは、この空室率は瞬間的なもので、タイミングによって数字が上下するという点です。たとえば、引っ越しシーズンである3月に調査した空室率は、他のタイミングでの調査よりも入退去が多くブレ幅が大きいため、平均的な数値としては扱いにくくなります。つまり、運用時のシミュレーションにおける実際的な数字として扱うのではなく、エリアにおける「ニーズの大きさ」を計る目的で使用するべき指標ということです〈図表1〉。

  • 3.稼働想定の空室率

     より詳細な空室率を求める場合は、空室期間から空室率を導きます。「今」だけでなく「年間」で判断するため、より現実的な「稼働率」を想定できます。この空室率は、主に事業計画を作成してシミュレーションするときに利用します。
     ここで利用する数値は、年間の平均退去率と平均空室月数です。退去率についてはファミリーなら15~20%、シングルなら20~25%程度となるので、該当する物件タイプに合わせて退去率を設定する必要があります。この数値は、言い方を変えるとシングルタイプの平均居住年数が3~4年、ファミリータイプは4~5年となります。そんなに長く住まないと思う方もいらっしゃると思いますが、あくまで平均居住年数であることに注意してください。つまり、2~3年で退去する人が多い一方で、10年以上住んで頂けるような、非常にありがたい入居者さんがいます。このような入居者さんが平均値を押し上げるのです。また、この平均退去率は、先に挙げた引っ越しシーズン、あるいは大学移転や工場移転などのイベントが起こらない限り、急激に変化するものではありません。年月とともに変化するのは、各戸の解約後の空室日数のほうでしょう。建物が老朽化するほど「決まりにくくなる」のは当然ですし、地域の産業や人口の増減などによって需要も上下するからです。ちなみに、退去率20%を前提とするならば、2カ月で入居者が決まる場合は空室率3.4%、3カ月なら5%、4カ月なら6.6%程度の数字となります〈図表2〉。

  • 4.実稼働家賃の空室率

     空室の数や日数ではなく、実際に稼働した家賃をもとに空室率を算出することもできます。こちらは満室想定家賃と、実際に得た家賃収入から計算するもので、主な用途としては購入(建築)後、稼働させてからの現状分析(空室改善)に用います〈図表3〉。

     現状分析の結果、事業計画での想定よりも空室率が高ければ、何らかの空室対策が必要となります。設備を刷新して価値向上を図るのか、初期費用キャンペーンなどで空室期間短縮を狙うのか、または広告料で差を埋めるのか……。実稼働家賃の空室率は、手を打つべきタイミングを計る際の重要な指標となるはずです。
     このように「空室率」といっても、それぞれで用いられる数値が変わることをしっかりと意識して、オーナーへの最適な提案を心がけたいものです。

page top
閉じる