賃貸管理ビジネス

月刊不動産2024年9月号掲載

高齢者の入居を促進する、残置物処理等に関する「モデル契約条項」とは

代表取締役 今井 基次(みらいず コンサルティング株式会社)


Q

 当社は地方都市にある不動産会社です。以前から賃貸管理業をしているのですが、人口減少が著しい地域のためか、当社にてお預かりしている管理物件の空室が年々増えています。
 一方で、入居を希望される方が「単身の高齢者」というケースが増えています。空室期間が長い物件が多いため、入居していただきたいところなのですが、単身の高齢者というと、将来的に物件内での孤独死や病死などが考えられるため、大家さんとしても当社としても、入居してもらうことに積極的になれずにいます。何かよい手立てがあれば教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  単身の高齢者が住居を賃借する需要は、地域によってますます増える可能性があります。このような事案においては、万が一、賃借人が死亡した場合に、残置物を円滑に処理することができるようにすることで残置物リスクを軽減し、賃貸オーナーの不安感を払拭することを目的とした「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用してはいかがでしょうか。オーナーと高齢の入居希望者の不安を払拭できる可能性があります。

  • 増加する単独世帯

     厚生労働省の発表によると、2024年の出生数の見込みは70万人を切るといわれており、今後ますます少子高齢化が顕著になります。主たる産業がない地域は高齢化がさらに加速し、高齢者の割合が増えていくでしょう。国立社会保障・人口問題研究所が2024年4月に発表した「日本の世帯数の将来推計」によると、2050年には全世帯における一人暮らし(単独世帯)の割合が2,330万世帯で、全体の44.3%に達する見込みとのことです。

     このようななか、賃貸住宅への高齢者のニーズは今後も一定数増えていくと考えられますが、単身の高齢者が死亡した際、「賃貸借契約の解除をどのようにしたらいいのか」「居室内に残された残置物をどう処理するのか」という不安感から、高齢者の入居希望をオーナーや管理会社が拒否しがちです。そこで、このような賃貸経営での不安感を払拭し、また単身高齢者の居住安定確保を図る観点から、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が、国土交通省および法務省において策定されました。この「モデル契約条項」とは、単身高齢者が死亡した際に、契約関係および残置物を円滑に処理できるように、賃借人と受任者との間で締結する「①賃貸借契約の解除」と「②残置物の処理」を内容とした死後事務委任契約のことをいいます。

    単身高齢者が亡くなったあと、部屋に残された引き取り手のない残置物

  • 賃借人と受任者との2つの委任契約

    ①賃貸借契約の解除事務の委任に関する契約

    ・賃借人の死亡時に、賃貸人との合意によって賃貸借契約を解除する代理権を受任者に与える

    ②残置物の処理事務の委任に関する契約

    ・賃借人の死亡時における残置物の廃棄や指定先への送付等の事務を受任者に委託する

    ・賃借人は、「廃棄しない残置物」(相続人等に渡す家財等)を指定するとともに、 その送付先を明らかにする

    ・受任者は、賃借人の死亡から一定期間が経過し、かつ、賃貸借契約が終了した後に、「廃棄しない残置物」以外のものを廃棄する(ただし、換価することができる残置物については、換価するように努める必要がある)

     このモデル契約条項は、その使用が法令で義務づけられているものではありませんが、モデル契約条項を利用することで、合理的な死後事務委任契約等が締結され、さらに単身の高齢者の居住安定確保が図られることが期待されています。

     

  • モデル契約条項を利用する場面とは

     単身高齢者(60歳以上の者)が、賃貸住宅を借りる場合に利用する場面が想定されています。入居者がお亡くなりになったあとの契約関係の処理や、残置物の処理に関する賃貸オーナーの不安感が払拭されれば、空室が解消されるだけでなく、単身の高齢者において賃貸住宅を借りやすくなるというメリットが期待されるでしょう。

  • 受任者になれる人

     この委任契約は、賃借人やその相続人の利害に大きく影響する契約であるため、以下のいずれかを受任者とすることが望ましいようです。

    ・賃借人(入居者)の推定相続人

    ・居住支援法人、管理業者等の第三者(推定相続人を受任者とすることが困難な場合)

     なお、賃貸オーナーは賃借人(の相続人)と利益相反の関係にあるため、オーナーを受任者とすることは避けるべきです。
     今後、単独高齢者の住宅ニーズはますます加速すると考えられています。空室で困っている物件において「高齢者だからお断りする」と決めつけないで、「モデル契約条項」を活用しながら、柔軟に入居促進を図っていきましょう。

  • 参考

    国立社会保障・人口問題研究所
    「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(令和6年推計)
    https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/t-page.asp

    国土交通省住宅局
    「残置物処理等に関するモデル契約状況の活用ガイドブック」
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001746714.pdf

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