法律相談

月刊不動産2010年10月号掲載

重要事項説明義務違反に対する監督処分

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

宅建業法35条に定められる重要事項説明を怠った場合、宅建業者は、宅建業法上、どのような責任を負うことになるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 (回答)

     指示処分(宅建業法65条1項・3項。以下、単に条文を掲げるときは、宅建業法を指す)、又は、1年以内の業務の全部又は一部停止の処分(65条2項2号・4項2号)がなされ、さらに情状が特に重いときは免許の取消処分を受けることもあります(66条1項9号)。

    2 (重要事項説明の意義)

     宅建業者は、売買・賃貸の契約が成立するまでの間に、書面を交付し、買主・借主に対し、取引主任者をして一定の重要な事項の説明をさせなければなりません(35条)。これが重要事項説明の義務です。宅建業法上、宅建業者が業務を行うにあたっての、最も基本的にして大事な義務ということができます。

     重要事項説明は、買主・借主が購入や賃借の前に宅地建物とその取引条件に関する重要事項を理解し、十分な情報を得た上で購入や賃借をするかどうかを判断できるようにするための説明です。仮に買主・借主が説明を受けることを望まなかったとしても、説明を省いてはなりません。

     重要事項の説明には書面交付が必要です。説明すべき事項は複雑多岐にわたり、口頭で理解してもらえる内容ではありません。そこで、書面を交付して説明することが法律上の義務とされています。法律に定められた事項を記載して交付される書面が、重要事項説明書です。

    3 (監督処分)

    (1) 国土交通省は、宅建業法違反に対する監督処分を行う場合の統一的な基準として、「宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準」( 以下、「監督処分基準」という)を公表しています(http://www.mlit.go.jp/
    common/000055293.pdf)。重要事項説明義務違反に関する指示処分と業務停止の処分についても、監督処分基準に定めがあります。

    (2) 指示処分とは、法令や不適正な事実を是正するために、違反者がどのようなことをしなければならないか(作為)、してはならないか(不作為)を、行政庁が宅建業者に命ずるものです。行政庁により、指示書が作成されて交付され、指示書によって指示された内容の命令が出されるとともに、その後、宅建業者が指示の内容を実施しているかどうかを確認するなどの措置を講じられます。

     宅建業者が、指示の内容に従わなかった場合には、次に述べる業務停止処分を受けます(65条1項3号)。

    (3) 業務停止の処分は、定められた期間中、宅建業に関する行為を禁じる処分です(業務停止開始日前に締結された契約(媒介契約を除く)に基づく取引を結了する目的の範囲内の行為は禁じられる行為から除外されます)。

     監督処分基準は、重要事項説明義務違反があった場合の標準の業務停止日数について、

    ア.書面を交付したけれども、書面に重要事項の一部を記載しなかったり虚偽の記載をした場合、説明をしなかった場合、取引主任者以外の者が説明をした場合
     :関係者の損害の発生の有無や程度によって、7日~30日、

    イ.書面を交付しなかった場合
      :関係者の損害の発生の有無や程度によって、15日~60日、としています。

    4 (指導・助言・勧告)

     宅建業法はまた、「国土交通大臣はすべての宅地建物取引業者に対して、都道府県知事は当該都道府県の区域内で宅地建物取引業を営む宅地建物取引業者に対して、宅地建物取引業の適正な運営を確保し、又は宅地建物取引業の健全な発達を図るため必要な指導、助言及び勧告をすることができる」とも定めています(71条)。監督処分に至らない違反行為については、宅建業者の違反行為の軽重及び態様等を総合的に勘案した上で、この条項に基づく指導、助言又は勧告がなされることもあります。

    5 (宅建業者の責務)

     宅地建物の売買・賃貸は、人々の生活や営業の基盤を形作る重要な取引です。宅地建物は大きな価値のある財産であり、一般消費者にとって、度々取引に関与するものではありません。しかも、権利関係や法令上の制限など取引の前提として理解しておかなくてはならない複雑な事項がたくさんあります。

     適切に重要事項説明を行うことは容易ではありませんが、宅建業者には専門家としての責務があり、その重要性は、常に十分な理解をしておかなければなりません。

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