賃貸相談

月刊不動産2005年4月号掲載

転貸の承諾と賃貸借契約の解除手続

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

貸家の一部を第三者に転貸することを承諾した後、賃借人(転貸人)が家賃を滞納したため契約を解除したところ、転借人は家主の承諾をもらった上で転貸料を支払っているのだから、自分に連絡がない解除は無効だと言っています。解除は無効になるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 転貸借の法律関係

     民法では、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ賃借物を転貸することはできないと定めています(民法612条1項)。また、「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は賃貸人に対して直接に義務を負う」と定めています(民法613条1項)。また、「賃借人が適法に賃借物を転貸したとき」とは、賃借人が転貸をするに当たり賃貸人の承諾を得たときを意味することになります。
     この規定によると、賃貸人の承諾を得て行われた転貸の場合には、転借人は賃貸人に対して直接に義務を負うことになりますから、家主が転貸人に対して直接に賃料を請求することも可能です。

     このことから、承諾転貸のケースで、借家人(転貸人)の家賃の滞納により賃貸借契約が解除された場合には、転借人から、自分は家主に直接賃料の支払義務を負っているのだから、家賃の滞納があったなら自分に督促すべきではないか、そうであれば自分は家賃を家主に支払ったはずだ、その場合には家主は賃貸借契約を解除できなかったはずだ、自分に催告もしないで借家人(転貸人)に対してのみ催告してなされた解除は無効である、と主張されることが多々あります。

     転貸を承諾した場合には、家主にそのような義務が果たして発生するかが問題となるわけです。

    2. 承諾転貸の場合における賃借人の賃料滞納と解除の可否

     民法が「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は賃貸人に対して直接に義務を負う」と定めているのは、家主は賃貸借契約に基づき、借家人(転貸人)に対して家賃の請求ができるのは当然ですが、さらに加えて、転借人に対しても賃料の請求ができるという意味で、賃貸人が必ず転借人に対して賃料を請求しなければならないとする規定ではありません。

     最高裁の判例も、「適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して延滞賃料の支払の機会を与えなければならないというものではない」と判示しています(最高裁昭和37年3月29日判決)。したがって、家主は、たとえ転貸を承諾した場合であっても、賃借人(転貸人)に家賃の不払があれば、転借人に督促することなく、賃借人(転貸人)に対して、相当期間を定めて未払家賃を催告し、催告期限内に賃借人(転貸人)からの支払がなされなければ賃貸借契約を解除することができるということになります。

    3. 承諾転貸の場合における賃貸借契約の解除と転借人に対する
     明渡し請求の可否

     転貸借とは、賃借人が自己の有する賃借権に基づいてその範囲内で第三者と賃貸借契約を締結して賃借物の全部又は一部を転借人に利用させることを内容とする契約ですので、転貸借契約はもともと賃貸借契約を基礎として成り立っていることになります。
     したがって、基礎となる賃貸借契約が終了した場合には、原則として、その基礎の上に成り立っている転貸借も終了することになります。

     借地借家法34条1項は、「建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を転借人に対抗することができない」と定めています。

     この規定からすると、賃貸借契約を解除した場合であっても、転借人に通知しない限り明渡しを請求できないかのように思われるかもしれませんが、この規定は、建物の賃貸借が、A:期間の満了又は、B:解約の申入れによって終了するときのもので、賃借人の債務不履行の場合には適用されません。最高裁の判例では、「賃貸借契約が賃借人(転貸人)の債務不履行により終了した場合、賃貸人の承諾ある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物(建物)の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する、目的物を使用収益させる債務の履行不能により消滅する」(最高裁平成9年2月25日判決)と判示していますので、転借人に対して催告することなく賃貸借を解除し、転借人に明渡しを請求することができます。

page top
閉じる