税務相談

月刊不動産2004年12月号掲載

資力喪失した場合の譲渡所得

代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

私は、事業の失敗により、金融機関から担保に差し入れていた自宅不動産を譲渡して返済に充当するよう要請されています。このような場合でも譲渡所得税の課税を受けるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  資産を譲渡した場合には、原則として譲渡所得の課税を受けることになります。
     しかし、その譲渡が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合において、次に掲げるようなときは、所得税は非課税とされます。

    ①強制換価手続(滞納処分、強制執行、担保権の実行による競売、破産手続等)による資産の譲渡

    ②強制換価手続の執行が避けられない場合の資産譲渡で、その譲渡対価(譲渡費用を控除した金額)の全部がその債務弁済に充当されたもの

     この場合「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」とは、資産譲渡時の現況において、債務者の債務超過状態が著しく、その者の信用、才能等を活用しても、現にその債務の全部を弁済するための資金を調達することができず、近い将来においても調達することができないと認められる場合をいいます。
     したがって、資産の譲渡時点の現況において債務超過状態ではなかった場合には、たとえその後の事情の変化によって債務超過の状態が著しくなったとしても、この規定の適用はありません。
     いっぽう、資産の譲渡時点で「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」であった場合には、その後において資力が回復し又は債務弁済が可能になったとしても、この規定の適用を受けることができます。
     複数の資産を譲渡する場合には、その個々の資産譲渡時点で資力喪失状態かどうか(換言すれば債務超過かどうか)を判断することになります。すなわち、資産譲渡時点における譲渡資産の価額と未譲渡資産の価額の合計額が債務金額を下回っていれば、この規定の適用を受けることができますが、逆に上回っている場合には、資力喪失状態であるとはいえないことになります。
     弁済すべき債務は「譲渡の時において有する債務」に限られ、資産の譲渡対価がその譲渡後に発生した債務の弁済に充当されたとしても「債務の弁済に充当された」ことにはなりません。
     譲渡所得とは、棚卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得以外の所得をいいます。
     次の代物弁済による資産の譲渡所得は、「譲渡対価が債務の弁済に充当されたもの」に該当します。

    ①債権者から清算金を取得しない代物弁済

    ②債権者から清算金を取得する代物弁済で、その精算金の全部をその代物弁済に係る債務以外の債務の弁済に充当したもの

     このように資力喪失による譲渡所得については非課税とされますので、譲渡喪失が生じた場合でも、その損失はないものとみなされます。

     このような資力喪失状態における譲渡所得については、①譲渡が本人の意思に基づかない強制的な譲渡であること、②実際問題として課税すること(徴税すること)が困難であること、③相続財産を物納した場合の譲渡所得について非課税としていることとのバランス上の観点等から非課税とされたものです。
     判例において「課税を行っても、担税能力がなく、結果的には徴収不能となることが明らかであること、また、個人に対してはその最低限の生活を保障すべき憲法上の要請があることから、これらを考慮して一定の合理的な範囲で課税所得とすることを控え、個人の生活維持を図ったものと考えられる。」とされ、国税不服審判所の採決においても「①一家の収入は、家族の生計を維持するのが限度であって、負債の返済はもとより、その利息を支払うに足りる資金調達の目処も全くなく、近い将来においてもその資力を回復することができない状態にあったこと、②抵当権者の一部から資産を競売して債務及び利息の返済をするように強く迫られていたこと等が認められる。」として、この非課税規定の適用を認めた事例があります。

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