賃貸管理ビジネス

月刊不動産2022年10月号掲載

賃貸管理業からの信頼関係構築で生産性を高めよ「顧客継続ファネル」②

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 長い間賃貸管理業を営んでいます。管理戸数は増えたり減ったりしながらほぼ横ばいです。長年お付き合いのあるオーナーさんとは、よい関係でお仕事をさせていただいているのですが、当社のスタッフのスキルに問題があるのか、既存のオーナーさんから新たにお仕事の話をいただく機会がほぼありません。このところ、賃貸仲介のお客様の来店数が減っており、それに応じて売上げも減少しています。継続的に収益を安定化させるには、どのような手段がよいとお考えでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     長い間賃貸管理業を営んでいます。管理戸数は増えたり減ったりしながらほぼ横ばいです。長年お付き合いのあるオーナーさんとは、よい関係でお仕事をさせていただいているのですが、当社のスタッフのスキルに問題があるのか、既存のオーナーさんから新たにお仕事の話をいただく機会がほぼありません。このところ、賃貸仲介のお客様の来店数が減っており、それに応じて売上げも減少しています。継続的に収益を安定化させるには、どのような手段がよいとお考えでしょうか。

  • はじめに

     前回は、管理受託をするための経路と、集客(広告)を行うときの目的を明確にすること、そして、いきなり管理受託ではなく、その前に小さな取引から信頼関係を構築し、管理受託に結びつける流れを説明しました。
     今回は、管理を受託してからの顧客関係の強化と、派生ビジネスへの展開について解説します。

  • 顧客関係管理

     いざ管理受託をしたら、オーナーからお預かりした物件のパフォーマンスを最大化させなければいけません。満室にするための提案を行い、もちろん日常の出納業務やメンテナンス業務、日常報告なども欠かせません。オーナーのための日々の活動が、小さな信頼関係を作り、それが積み重なることで、やがて管理会社はオーナーにとって無くてはならない存在になります。
     一方、空室が長い間続いているのに全く提案を行わなかったり、せっかく物件が満室なのに、埋まっているからやることが特にないと、何のコンタクトも取らなければ信頼関係は構築されません。
     オーナーは不動産という大きな資産を保有して、管理会社はその管理を委託されているわけですが、オーナーが保有しているのはその物件だけとは限りません。ほかにも物件を保有している可能性もあれば、将来的に新築物件を建てることも考えられます。せっかくそのような人にアプローチできるチャンスが無限にあるにもかかわらず、「何もしない」では大きなビジネスチャンスを逃していることにほかなりません。
     よって、仮に満室状態でも、最低月に一回程度は必ず会う機会(または何かしらのコンタクト)を設け、積極的な情報発信をするようにしたいものです。

  • 管理会社にとっての良いシナリオと悪いシナリオ(図表1)

     賃貸管理を行う中で、最も現実的な派生ビジネスといえば売買仲介があるでしょう。既存の管理物件の売買仲介に携われるか否かで、管理会社の売上げは大きく左右します。先ほどの話に戻りますが、売却をする前の「ちょっと相談したいことがあるんだけど、聞いてもらえませんか」という一言をもらえる距離感に、管理会社のスタッフがいられるかどうかがカギになります。不動産の相談は、毎日や毎月あるものではなく、突然ふと訪れるものです。その瞬間に、「そういえば、〇〇さんに相談してみようかしら」と思ってもらえることが重要で、日常の信頼関係の積み重ねが重要となるのです。
     最良のシナリオは、売却の相談に乗り(A)、管理受託をお預かりし、専任媒介により(B)、自社のその他のオーナーに物件を購入していただき(A)、管理がそのまま残る(A)というものです。売買の両手仲介を行え、さらに管理もこれまでどおり残るのですから、これ以上の生産性が高い業務はないでしょう。
     一方、最悪のシナリオは、相談どころか何も知らない状態で売却の話が進んでいて(C)、一切の仲介に関与できず(C)(B)、気づけば新しい買主が管理を他社に委託する(B)ことが確定しているという状態です。せめて、片手の売買仲介か、管理が残せることができればよいのですが、3つとも全て取りこぼしてしまえば、管理会社にとって大きな機会損失となります。
     このような悪いシナリオは、管理戸数が増えるほど起こりやすくなります。理由としては、戸数の増加に伴いオーナーとの顧客関係が薄れていくためです。管理ビジネスはストック事業ですから、安定して収益を得ることができますが、そこがゴールではありません。さらに展開を図るには、オーナーとの信頼関係を構築していくことがとても重要なのです。それらができれば、さらに深いファネルへと繋いでいくことができる非常に優れたビジネスモデルであるということを、改めて認識できるのではないでしょうか(図表2)。

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