賃貸相談

月刊不動産2013年1月号掲載

賃貸建物における事故とオーナー責任

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

賃貸アパートの外階段が崩落し、入居者が重症を負いました。原因は建築業者の手抜き工事ですが、築後わずか11年の建物なので想定もできなかった事故です。それでもオーナーに責任はありますか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.賃貸建物における事故とオーナー責任

     賃貸人は、賃借人との間で賃貸建物について締結している建物賃貸借契約に基づき、賃貸建物を使用・収益に適する状態において賃借人に使用・収益させる義務を負いますし、賃借人は使用・収益の対価としての賃料を支払う義務を負います。

     仮に、賃貸建物における事故が、賃貸人の過失によって発生した場合、例えば、賃貸人が当然行うべき物件の管理を適正に行わず、そのために事故が発生したというような場合には、賃貸人の過失による債務不履行または不法行為に基づく賃借人その他の被害者に対する損害賠償義務が発生します( 民法第415 条または民法第709条)。

     しかし、アパートの外階段が崩落し、その原因が建築請負業者の手抜き工事にあったとすると、責められるべきは手抜工事を施工した建築請負業者であって、建築工事を発注した賃貸人には責められるべき事情があるわけではありませんし、過失があるともいえないはずです。このように、事故の発生については賃貸人には何らの過失も認められないという場合であっても、賃貸人が、法律上、建物の所有者として、事故に遭った賃借人その他の被害者に対して損害賠償義務を負担するか否かは別途の問題となります。

    2.建物所有者の工作物責任

     民法第717 条1 項は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と定めています。

    (1) 土地の工作物

     「土地の工作物」とは、土地に接着して築造された設備をいうものとされています(大判大正1年12月6日)。

     具体的にはブロック塀、橋、トンネル、高圧電線等が該当し、建物や建物内のエレベーター、エスカレーター設備等も土地の工作物と解されています。

    (2) 設置または保存の瑕疵

     瑕疵とは、その物が通常有すべき品質を欠いていることをいい、建物が通常有すべき安全性を欠いていることも瑕疵に該当します。

     「設置の瑕疵」とは、土地の工作物を設置した時点で発生している瑕疵をいい、建物についていえば、建物を新築した時点で存在する瑕疵をいいます。「保存の瑕疵」とは、土地の工作物を設置した時点では瑕疵は存在していなかったものの、その後の維持管理の過程で老朽化等に伴い発生するに至った瑕疵を意味します。

    (3) 土地の工作物責任の義務者

     ①占有者の責任

     土地の工作物の設置または保存に瑕疵があった場合には、第一次的には土地の工作物の占有者が被害者に対して損害賠償責任を負うと定められています。占有者とは、工作物を事実上支配する者で、その瑕疵を修補し、損害の発生を防止し得る者をいいます。賃貸建物の管理業者が「占有者」に該当するか否かは論点となり得るところですが、少なくとも、契約管理業務のみならず、物件管理業務まで受託している場合には占有者に該当する可能性があります。ただし、占有者の責任は過失責任であり、占有者に損害の発生に関して過失が認められない場合には、占有者は工作物責任を免れることになります。

     本件では、外階段の崩落の原因は建築請負業者の手抜き工事にあり、建築後11 年の建物であったということですから、通常、外階段に不具合が生ずることを予見することは困難と考えられますので、日常的に外階段についての危険が感知できるような状態でない限り、原則として、占有者に過失があったとは認められないケースと考えられます。

     ②所有者の責任

     占有者に過失が認められない場合には建物の所有者が損害賠償責任を負うことになります。建物の所有者に過失が認められない場合については、民法第717 条は何も規定していません。これは所有者の無過失責任を定めたものと解されています。したがって、外階段の崩落の原因は建築請負業者の手抜き工事にあり、建築後11 年の建物であったということからすると、所有者には過失が認められないものと思われますが、土地の工作物責任は所有者の無過失責任を定めたものですので、建物所有者には損害賠償責任が認められることになります。

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