賃貸相談

月刊不動産2004年6月号掲載

賃貸店舗の模様替えと賃貸人の承諾の要否

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

店舗賃貸で借家人が賃貸人の承諾を得ることなく模様替えを行っています。賃貸人は模様替えを容認しなければならないのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.模様替えの法律関係

     本来、模様替えとは、建物の増改築とは異なる概念です。増改築は、建物の壁、柱、床、天井等のいわゆる建築躯体、構造物に手をつけ、これを改変する行為ですので、賃貸人の所有する建物の所有物に対する変更を伴うことになります。したがって、建物賃貸借において、借家人が建物の増改築を行うことは、原則として建物所有権の侵害ということになりますので、建物賃貸借契約書に増改築の禁止条項があるか否かにかかわらず、賃貸人の承諾を得なければ行ってはならないことになります。
     これに対し、模様替えとは、本来的には、建物の壁、柱、床、天井等のいわゆる建物躯体、構造物に手をつけることなく行われる内容の変更を意味します。例えば、クロスの張り替えや、間仕切りの設置、棚板等の設置や床の増設等がこれに該当します。
     これらの本来的な意味での模様替えの場合は、増改築とは異なり、建物の本体を損傷させるものではないので、賃貸人の建物所有物を侵害するものとはいえず賃貸借契約において当然に禁止されていると評価することはできません。
     したがって、賃貸借契約において、格別に模様替えについて規定していない場合には、借家人は原則として模様替えを自由に行うことができると考えることになると思われます。現実的にも、今日のように顧客の好みが多様化し、商売の環境の移り変わりが著しい状況では、賃借人の側も店舗の模様替えを頻繁に行っていかなければ営業の継続が困難になる場合も少なくないと思われますので、この結論は是認されるべきものと思います。

    2.模様替えに対する賃貸人の承諾条項

     賃貸借契約に模様替えに関する条項がない場合、賃借人は原則として模様替えを自由に行うことができることになりますが、賃貸借契約書の中には、「建物の増改築、模様替えその他賃貸店舗の原状を変更する場合には、あらかじめ賃貸人の承諾を得なければならない。」とする内容の条項が規定されていることがあります。
     こうした特約が設けられている場合には、まずこのような特約の有効性が問題となりますが、契約当事者が真実に合意した以上、かかる特約は公序良俗違反か強行規定に違反していない限り、その効力は認められることになります。模様替えをする場合に賃貸人の承諾を得なければならないという条項は、公序良俗に違反するとまではいえませんし、その他の強行規定にも直接違反するものとは考え難いところです。
     したがって、模様替えをする場合に賃貸人の承諾を得なければならないという特約条項は、当事者が合意した以上は有効であるということになります。かかる特約がある場合には、模様替えの際に承諾料が発生することもあるようです。
     問題は、このような特約があるにもかかわらず、借家人が賃貸人の承諾を得ることなく模様替えを行った場合に、賃貸人は賃貸借契約を解除することができるか否かです。

    3.無断の模様替えと賃貸借契約の解除の可否

     模様替えを禁止する特約が有効である以上、借家人が賃貸人の承諾を得ることなく模様替えをした場合は賃貸借契約の違反ということになります。この点からすれば、契約違反を理由に賃貸借契約の解除ができそうですが、他方で、模様替えは借家人にとっては営業上の死活問題となる場合もあり得ますので、判例は無断の模様替えがなされた場合でも直ちに賃貸借契約の解除を認めるというのではなく、借家人の行為が賃貸人との信頼関係を破壊するものであるか否かを判断して結論を出すという、信頼関係理論によっています。問題は、どのような模様替えが信頼関係を破壊すると判断されるかですが、一般的には次のような点が考慮されているといってよいと思います。

     1つには、模様替えが賃貸人に損害を及ぼすおそれがあるか否かということです。

     2つには、模様替えの内容ですが、大規模で元の状態に戻すことが困難となるか否かです。

     3つには、そもそも借家人にとって模様替えをする合理的な理由がどの程度認められるかという点です。これらを総合的に考慮して解除の可否が判断されることになりますので参考にしてください。

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