税務相談

月刊不動産2017年1月号掲載

賃貸借契約の際に無償返還の届出書が提出された土地の相続税法上の評価

山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長 税理士)


Q

 法人が建物の所有のために個人から土地を賃借し、地主である個人と連名で所轄税務署長に無償返還の届出書を提出していた場合における、その個人所有の土地の相続税法上の評価について教えて下さい。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     個人と法人間でご質問のような土地の賃貸借契約を締結した場合、借地人である法人は、その土地につき借地借家法上の借地権を有することから、その土地の相続税法上の評価は貸宅地とされます。この場合、個人の地主と法人の借地人の連名で無償返還の届出書が提出されているときは、その土地は自用地評価額から借地権の価額として自用地評価額の20%相当額を控除した残額、すなわち自用地評価額の80%相当額で評価します。

  • 使用貸借契約と賃貸借契約の違い

     使用貸借契約とは、対価を支払わないで他人の物を借りて使用収益する契約をいいます(民法第593条)。土地を貸す対価として地代を受け取る場合でも、その地代の水準が、貸した土地の公租公課(主に固定資産税と都市計画税)に相当する金額以下の土地の貸借は、使用貸借契約となります(民法第595条第1項)。

     一方、賃貸借契約とは、借主が貸主に賃料を支払い、貸主の物を使用収益させる契約をいいます(民法第601条)。

     賃料として受取る地代の水準が、貸した土地の公租公課に相当する金額を超える場合には、賃貸借契約となります。この場合には、借地借家法上、賃貸借契約であることにより、借地人には借地権が生じることになります。賃貸借契約に該当することを明確にしたい場合には、地代水準を土地の固定資産税と都市計画税の2~3倍とすることが多いようです。

  • 土地の賃貸借において権利金等を支払わない場合の税務上の原則的な取扱い

     前述のとおり、土地の賃貸借契約により、借地人には借地権が生じることになります。法人税法上は、権利金を収受する取引上の慣行があるにもかかわらず、土地の貸借に際して、借地人である法人と地主である個人との間で、権利金の収受が行われず、「相当の地代」(法人税法施行令第137条、法人税基本通達13-1-2)も収受しないときは、本来であれば、地主である個人から借地人である法人に借地権が贈与されたものと認定され、法人においてその贈与された借地権の経済的価値の受贈益が益金の額に算入されます(法人税法第22条第2項)。これを「借地権の認定課税」といいます。

     なお、「相当の地代」とは、収受した権利金等の額がない場合、更地価額(原則として通常の取引価額ですが、公示価格または相続税法上の評価額を選択することもできます)の年6%を乗じた地代水準をいいます(法人税基本通達13-1-2、使用貸借通達(注)1)。例えば、固定資産税及び都市計画税の年額の3倍に相当する地代水準である場合、その地代の水準は、通常の場合「相当の地代」に達していないと考えられます。

    (注) 相続税個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」をいいます。

  • 土地の賃貸借において権利金等を支払わずに無償返還の届出書を提出する場合

    (1)借地権の税務上の評価額

     法人が土地の賃貸借契約により土地を借り受ける場合で、権利金を支払わず、かつ、支払う地代が相当の地代に満たないときであっても、この賃貸借契約書において、法人が将来地主に土地を無償で返還する旨を明記し、かつ、地主と法人の連名で無償返還の届出書を当該法人の所轄税務署長に提出した場合、税務上は借地権の経済的価値はないものとして取扱います(法人税基本通達13-1-14(1))。したがって、「借地権の認定課税」も行われません。

     これに対応して、この無償返還の届出書が提出されている場合の相続税法上の借地権の価額は、ゼロとして評価します(「相当地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱い(昭60課資2-58、直評9)(平3課資2-51、平17課資2-4改正)」5)。

     

    (2 )賃貸借契約により借地権が設定されている土地の税務上の評価額

     借地権が設定されている土地(貸宅地)相続税法上の評価は、自用地としての評価額から、その設定されている借地権の価額を控除して計算するのが原則です。したがって上記(1)よりその土地に設定されている借地権の価額がゼロである場合、その土地は本来自用地として評価されるはずですが、土地の賃貸借契約が締結されて実際に使用されている以上、その土地について、借地借家法による借地人に対する強い保護と賃貸借契約に基づく利用の制約等が存在します。このため、貸宅地につき無償返還の届出書が提出されているときは、その貸宅地の相続税法上の評価額は、自用地評価額から借地権の価額として自用地評価額の20%相当額を控除した残額、すなわち自用地評価額の80%相当額とされます(前掲通達8)。

  • Point

    • ご質問の場合、地主である個人と借地人である法人の土地の貸借は賃貸借契約ですが、無償返還の届出書が提出されているため、貸宅地である土地の相続税法上の評価は自用地評価額の80%相当額で評価されます。
    • 土地の賃貸借契約により借地権が設定されている土地について、無償返還の届出書が提出されている場合には、その借地権の税務上の評価額は前述の通りゼロとされます。

     

     ただし、地主である個人に係る相続税の計算において、その個人が同族関係者である法人に土地を貸し付けており、その貸宅地とともにその法人の株式を評価するときは、課税の公平上の見地より、その株式の純資産価額の評価上、その土地の自用地評価額の20%相当額を借地権の価額として算入します(前掲通達3、6、「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(昭43年直資3-22、直審(資)8、官審(資)30))。

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