賃貸相談
月刊不動産2003年12月号掲載
賃貸住居に会社名義の表札
弁護士 田中 紘三(田中紘三法律事務所)
Q
住居として貸した部屋に会社名義の表札が出されました。何か対策が必要なのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.ある個人に住居として建物を賃貸したはずなのに、いつのまにか郵便受けや表札に法人の名前が記載してあることがあります。そのような場合には、一般にはその法人が建物の占有をしていると推認されるので、無断転貸が賃貸人に対する背信行為と認められる場合には、賃貸人は法人の名前の記載をやめなければ契約を解除すると主張することができます。以下において、具体的に、どのような場合に背信行為と認められやすいのかということについて述べてみます。
2.表札の法人が賃借人とは無関係の第三者である場合には、明らかに配信行為と認められます。また、居住目的と営業目的では、人の出入り、電話等の騒音、内装の内容等が異なります。したがって、賃貸人は、無断転貸を理由に賃貸借を解除することができます。
3.以上のような無断転貸の場合には、表札を取り外すことも要求できますが、それだけでは、無断転貸が解消したと言えないこともあります。表札を不要とする商売の例はいくらでもあり、表札を取り外したとしても、室内を完全な営業事務所ないし作業所としたままということもあり得るからです。
4.賃借人が、これまでは個人営業をしていたけれども、税金対策等のために法人を設立(法人成り)し、その表札等を掲げるようになった場合はどうでしょうか。営業目的の建物の場合には判例があります。すなわち、個人営業から法人成りすることは無断転貸にはなるけれども、会社の実験は従前の賃借人が掌握し、賃借建物の使用状況等も個人営業の時と実質的に変化のない場合は背信行為とは認められないから解除権は発生せず、また、その実質的変化がなくても、後に会社の実験が第三者に移ったときは、事情が変更され、その時点で信頼関係が破壊されたものとして解除権を認めるのが下級審判決の大勢です。賃借建物が居住目的であった場合、上記のとおり、居住目的と営業目的では建物の使用形態が違うことから、法人成りの場合にも配信行為として解除権が発生する可能性が高いものと思われます。
5.その一方において、単に郵便受け用の便宣として、賃借人経営の会社や他人経営の会社の表札を掲げたり、節税目的の法人成りや経理上の都合による場合等単に形式的に表札等を掲げたにとどまり、入居者にほとんど変化がなく、建物の使用形態もほぼ従前どおりである場合には、無断転貸による契約解除という主張はできないと考えられます。ただし、建物の館内規制で現実の居住者以外の者の名義を表示することが禁止されていれば、その違反という問題が生じます。
6.なお、配信行為があると認められるような場合であっても、建物の使用状況等に実質的変化があるにもかかわらず、賃貸人がこれを放置していると、賃貸人はその変化を追認していたという反論にあいかねません。賃貸人は、そのような追認はしていないということを常日頃賃借人に知らせておくことも重要でしょう。