税務相談
月刊不動産2008年8月号掲載
賃貸不動産の修繕費を支出した場合の法人税の取扱い
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
法人が所有する賃貸不動産の修繕費を支出した場合の法人税の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1. 修繕費とされる場合
(1) 原則的な考え方
不動産の修理や改良等のために支出した金額のうち、その不動産の維持管理や原状回復のために要したと認められる部分の金額は、修繕費として支出した時に損金算入が認められます。
(2) 修繕費に該当する支出の例
次に掲げるような支出は、修繕費に該当します。
① 建物の解体移築等 (解体移築等を予定して取得した建物にかかる修繕を除く) に要した費用。ただし、解体移築については、次の要件をすべて満たすものに限ります。
イ. 解体移築については、旧資材の70%以上が性質上再使用できること。
ロ. 旧資材をそのまま利用して、従前の建物と同一規模及び構造の建物を再建築すること。
② 地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う一定の地盛りに要した費用。
③ 使用中の土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設等に要した費用
2. 資本的支出とされる場合
(1) 原則的な考え方
不動産の修理や改良等のために費用を支出した場合、その修理や改良等が不動産の使用可能期間を延長させ、又は価値を増加させる場合は、その延長や増加させる部分に対応する金額は修繕費とはならず、資本的支出とされます。資本的支出とされた金額は、その支出にかかる不動産の取得価額に算入されます。
(2) 資本的支出とされる支出の例
修繕費か資本的支出かの判定は、その支出の実質に基づいて判定します。例えば次のような支出は、原則として修繕費にはならず、資本的支出となります。
① 避難階段の取付けなど物理的に付加した部分の金額
② 用途変更のための模様替え等、改造や改装に直接要した金額
(3) 修繕費とされる場合
支出した金額が①又は②の要件に該当する場合には、(1)にかかわらず、修繕費として損金算入できます。
① 一つの修理や改良等の金額が20万円未満の場合
② おおむね3年以内の期間を周期とする修理や改良等
(4) 資本的支出とされた場合の建物の減価償却
建物に対して資本的支出を行った場合、法人税の計算上は、その資本的支出を行った減価償却資産本体と同じ種類及び耐用年数の建物を新たに取得したものと考えます。したがって、資本的支出の金額を新規に取得した建物の取得価額として、その種類と耐用年数に応じて減価償却の計算を行います。
3. 修繕費と資本的支出の区分が明らかでない場合
一つの修理、改良等の金額のうちに、修繕費に該当するか資本的支出に該当するか明らかでない金額がある場合には、次の基準により区分することができます。
(1) 支出額が60万円未満の場合や、その不動産の前事業年度終了の時における取得価額のおおむね10%相当額以下の場合は、修繕費として取り扱われます。
(2) 法人が継続して支出額の30%相当額と不動産の前事業年度終了の時における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出としている場合には、その処理が認められます。
4. 災害により被害を受けた不動産の修繕費
災害により被害を受けた不動産 (被災不動産) について支出した費用については、次の基準により修繕費となるかどうかを判定します。
(1) 被災不動産の原状を回復するために支出した費用は、修繕費とします。
(2) 被災不動産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出した費用は、修繕費とすることができます。
(3) 上記 (1) と (2) を除き、被災不動産について支出した費用のうち、修繕費であるか資本的支出であるかが明らかでない金額がある場合には、支出額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とすることが認められます。