賃貸相談
月刊不動産2007年10月号掲載
賃料改定と敷金額の変更の可否
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
当社では、最近の都市圏の地価の増額に伴い賃料を増額改定致しました。賃料が増額された場合には敷金も増額したいと思いますが、認められるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1. 敷金とは何か?
敷金とは、賃貸借契約締結の際に賃借人から賃貸人に対して預託される金銭で、賃貸借契約に基づく賃借人の賃料債務や原状回復債務などの債務を担保する目的で交付されるものをいいます。
敷金の交付により、賃借人は、賃貸人に対して将来の敷金返還請求権を有することになりますが、その条件は、(1)賃貸借契約が終了し、(2)未払賃料債務等の賃借人の債務を控除し、(3)明渡しが完了した後になお残額がある場合に、その残額について認められることになります。つまり、明渡しと敷金返還は同時履行関係にはなく、明渡しのほうを先に履行すべきことになります。
このように、敷金とは、そもそも授受される目的が賃借人の賃料支払債務等の不履行に備え、賃貸人の賃借人に対する債権を保全するためのものですから、賃料額とは密接な関係を有するものということができます。
2. 賃貸借契約書において敷金額を定める方法
賃料が例えば月額10万円とした場合、敷金額は賃料の3か月分として30万円としたケースで、賃料額を10万円から12万円に増額した場合、賃料の3か月分は36万円ですから、敷金は36万円に改定されることになるのではないか、ということが問題になってきます。
こうしたケースを考えるとき、賃貸借契約で敷金としてどのような定め方をしているのかということも問題になります。
(1) 具体的な金額を敷金額として定めている場合
例えば、賃貸借契約書に「敷金は30万円とする」と具体的な金額で定められている場合です。もちろん敷金を30万円と定めるには、月額賃料が10万円で敷金として預かる金額は賃料の3か月分であるから敷金は30万円とするといった考えのもとに具体的な敷金額を決定している場合がほとんどだと思います。しかし、賃貸借契約の具体的な条項としては、敷金の欄には具体的な金額のみが記載され、敷金は賃料の何か月分とするという規定がないという定め方の場合です。
(2) 月額賃料の何か月を敷金額として定める場合
賃貸借契約書には敷金額として具体的な金額は記載されず、ただ単に「賃料の何か月分を敷金とする」と定められているケースです。
(3) 具体的金額と賃料の月数とを併記している場合
例えば、「敷金額は30万円(賃料の3か月分)とする」という規定のように、具体的な敷金額と当該敷金が月額賃料の何か月分に相当するかを併記する定め方です。
3. 敷金額の定め方と賃料改定との関係
(1) 契約自由の原則
賃料を改定した場合に敷金を変更できるか否かは本来的には契約自由の原則が妥当する領域と考えられます。例えば賃貸借契約で「敷金は賃料の3か月分とし、賃料が増減改定された場合は敷金も従前賃料との差額を増減精算しなければならない」との趣旨が規定されている場合は、賃料額の改定により当然敷金も変更されると考えてよいと解されます。
問題は賃料額の改定と敷金額との関係について何も定められていない場合にどのように解すればよいかということです。
(2) 具体的な金額のみが規定されている場合
この場合は、当事者は敷金額を決定する基準として賃料の何か月ということを考慮したかもしれませんが、契約の内容としては、敷金は単に具体的な金額としてのみ定められていますので、賃料が改定されたからといって敷金を改定することは困難であると思われます。
(3) 「月額賃料の何か月」という定め方の場合
この場合は、敷金の額を決める基準は賃料の何か月かということにあり、敷金額は賃料債務の担保でもあることから、賃料額が改定された場合には敷金についても従前賃料との差額を精算しなければならないという考え方が妥当なものと思われます。
(4) 具体的金額と賃料の月数とを併記している場合
この場合には、一方で敷金額は具体的な金額で定めていますが、他方においては賃料の月数という基準も定められているという点で、解釈上も考え方が分かれると思われますが、敷金が賃料債務の担保であるという点を考慮すると、差額を精算しなければならないという考えが妥当であると思われます。