法律・税務・賃貸Q&A

賃借権の譲渡と敷金の返還時期

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士

質問

 弊社は、テナントから賃貸建物の借家権を第三者へ譲渡したいとの要望を聞き入れ、借家権の譲渡を承諾したのですが、借家権を譲渡したテナントからは賃貸借契約から離脱するので、敷金を返還してほしいと言われています。応じる必要があるのでしょうか。

月刊不動産2017年10月号掲載
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回答

Answer

 賃借権が旧賃借人から新賃借人に譲渡され、賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱する場合には、敷金を交付した旧賃借人等が賃貸人との間で、当該敷金をもって今後は新賃借人の債務の担保とすることを合意するか、新賃借人に敷金返還請求権を譲渡するなどの特段の事情のない限りは、敷金返還請求権は新賃借人には承継されませんので、賃貸人は、旧賃借人に対し、敷金を返還する必要があります。

1.敷金の法的性格

 現行民法には、敷金を定義した条文はありせんし、敷金の返還時期を定めた条文もありません。そこで、敷金については、その内容や返還時期は判例により明らかにされています。わが国の最高裁の判例では、敷金は、「賃貸終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するもの」としており、「敷金返還請求権は、賃貸借終了後家屋明渡完了の時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除しなお残額がある場合に、その残額につき具体的に発生するものと解すべきである」としています(最判昭和48年2月2日)。

 つまり、敷金とは、賃借人の賃貸人に対する賃貸借契約上の債務を担保するために交付される金銭であるとされていますので、敷金の返還時期は、敷金としての債務担保の目的が終了したとき、すなわち、賃貸借契約が終了した後、家屋の明渡しが完了した時において、その時点までに発生した賃借人の債務を敷金から全て差し引き、なお残額がある場合に、その残額の返還請求権が具体的に発生するのだとしています。

2.賃貸借の当事者の変更と敷金の返還

 敷金は賃借人の賃貸借契約に基づく債務の担保であるとすると、賃貸借契約の当事者が変更した場合は、敷金の返還は行われるのでしょうか。

 

(1)賃貸人が変更した場合の敷金の返還

 賃貸建物が第三者に譲渡され、賃貸建物の所有権が第三者に移転した場合には、当該建物の賃借人は自己の賃借権の対抗要件(賃借物件の引き渡しを受けていること)を具備している限り、自己の賃借権を賃貸建物の新所有者に対抗することができます。その結果、賃貸人たる地位は新所有者に承継されます。この場合の敷金の取扱いについて、最高裁は、「建物賃貸借契約において、該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があつた場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される」と判断しています(最判昭和44年7月17日)。つまり、賃貸人の地位が移転した場合は、これに伴い敷金に関する権利義務関係は新賃貸人に承継されるとしています。新賃貸人に敷金が承継される際、旧賃貸人のもとで発生した未払賃料等がある場合に、これを当然に充当した上で承継されるということは、例えば、旧賃貸人が敷金を300万円預かり、賃貸人の地位が第三者に移転する時点で100万円の未払い賃料があったときは100万円が充当され、「300万円-100万円=200万円」が敷金として新賃貸人に承継されることになります。

 したがって、敷金関係は新賃貸人に承継されますので、新賃貸人は現在の賃借人との賃貸借契約が終了するまでは敷金の返還は必要ありません。

 

(2)賃借人が変更した場合の敷金の返還

 これに対し、賃借権が旧賃借人から第三者に譲渡されると、賃貸借契約関係は賃貸人と当該第三者との間に移転します。敷金は賃貸借契約上の債務を担保する目的で授受されるものですから、賃貸借が承継されるのであれば、敷金返還請求権も新賃借人に承継されるかといえば、そうではありません。賃借権の譲渡を行う場合には、この点に注意する必要があります。

 前述の賃貸人の地位が譲渡により移転した場合は、賃貸借契約関係も敷金還請求権も譲受人に承継されますが、賃借人の地位が譲渡された場合には、賃貸借関係は譲受人に承継されても敷金返還請求権は当然には承継されないのです。最高裁は、「賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃借関係から離脱した場合においては、敷金交付者が賃貸人との間で敷金をもて新賃借人の債務不履行の担保することを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではない」と判示しています(最判昭和53年12月22日)。

3.賃貸借の譲渡と敷金返還の要否

 上記の最高裁判例によれば、テナントからの賃借権譲渡の承諾申し入れを賃貸人が承諾すると、適法に賃借権が譲渡されるため、賃貸借契約は賃借権の譲受人に移転しますが、敷金返還請求権は当然には賃借権の譲受人には移転しません。旧賃借人(賃借権の譲渡人)は賃貸借関係から離脱しますので、旧賃借人の賃貸借契約に基づく債務は以後発生しないことが確定します。このため、旧賃借人は、賃人に対し、敷金返還請求ができることとなります。

 賃借権が譲渡されても敷金返還時期が到来しないようにするためには、オーナーが、賃借権の譲渡を承諾する際に、賃借権とともに敷金返還請求権を譲受人に債権譲渡することが承諾の条件であると伝えることが必要になります。

Point
  • 敷金は、賃貸借終了後、家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものである。
  • 建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される。
  • 賃借人の地位が譲渡された場合には、賃貸借関係は譲受人に承継されるが、敷金返還請求権は当然には承継されない。
  • 賃借権が譲渡されても敷金返還時期が到来しないようにするためには、オーナーが、賃借権の譲渡を承諾する際に、賃借権とともに敷金返還請求権を譲受人に債権譲渡することを求める。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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