税務相談
月刊不動産2011年8月号掲載
貸家の敷地を相続した場合の小規模宅地等に係る相続税の特例
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
相続により被相続人が所有している貸家の敷地を相続した場合の小規模宅地等に係る相続税の特例の適用について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例
(1)特例の概要
個人が相続や遺贈(相続等)によって取得した財産の中に、被相続人の居住用や事業用に使用されていた宅地等がある場合には、相続税の課税価格の計算上、その宅地等の評価額のうち一定割合を減額する特例があります。これを「小規模宅地等に係る相続税の特例」といいます。
相続開始時に被相続人の貸付事業に使用されていた宅地等(貸家の敷地など)で次の①~③の要件を満たすものは、相続税の計算上、200㎡まで評価額の50%を減額できます。
①被相続人の貸付事業に使用されていた宅地等を取得した被相続人の親族が、相続開始時から相続税の申告期限(相続開始日の翌日から10か月以内)までの間に、その宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継いでいること。
②①の貸付事業を承継した親族が、相続開始時から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を所有していること。
③①の貸付事業を承継した親族が、貸付事業を承継後、その宅地等を相続税の申告期限まで宅地等を引き続きその貸付事業に使用していること。
(2)貸付事業の範囲
上記(1)の「貸付事業」には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐輪場業のほか、不動産貸付業とはいえないような規模の不動産貸付けも含みます。ただし、相当の対価を得て継続的に行う不動産貸付けに限られ、使用貸借で貸し付けられている宅地等は除外されます。
2.一時的に賃貸されていなかった部分がある場合
相続財産中の宅地等が被相続人の貸付事業に使用されていた宅地等であるかどうかの判定は、原則として相続開始時点でその宅地等が現実に被相続人の貸付事業に使用されていたかどうかにより行います。
しかし、相続開始時点において、以前から営んでいた貸付事業が一時的に中断されていたにすぎない場合まで同様の判定を行うことは、実情に即さないともいえます。このため、貸付事業に係る建物等のうちに、相続開始時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合、その敷地については、貸付事業に使用されていた宅地等に該当するものとして取り扱われます。
3.申告期限までに貸家を建て替えた場合
被相続人が貸付事業に使用していた宅地等を相続等で取得した親族が、相続税の申告期限までの間に被相続人等の貸付事業に使用されていた建物等の建て替え工事に着手し、その申告期限において工事中である場合、その建物等の敷地は、1.(1)③の「相続税の申告期限まで宅地等を引き続き貸付事業に使用していること」の要件を満たさないことになります。しかし、貸家等の建て替えは貸付事業の継続に必要なものであり、建て替え中に相続税の申告期限が到来した場合に、その一時点だけをみて形式的に判定をすることは実情に即さないともいえます。
このため、被相続人等の貸付事業に使用されていた建物等が相続開始日から相続税の申告期限までに建て替え工事に着手されたときは、その敷地である宅地等のうち、その親族によりその貸付事業に使用されていると認められる部分については、申告期限において、その親族が貸付事業に使用しているものとして取り扱われます。
4.相続税の申告期限までに宅地等を譲渡した場合
貸付事業を引き継いだ親族が、相続等により取得した貸付事業用の宅地等を譲渡した場合は、「相続税の申告期限まで宅地等を引き続き保有し、かつ貸付事業に使用する」という1.(1)の②と③の要件を満たさないことになりますから、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
5.宅地等を相続等した親族が死亡した場合
被相続人の貸付事業に使用されていた宅地等を相続等により取得した親族が、相続税の申告期限までに申告書を提出しないで死亡した場合、その宅地等を取得した親族の相続人が、相続税法の規定により延長された申告期限(その親族に係る相続開始日の翌日から10か月以内)までに被相続人の貸付事業を引き継ぎ、その延長された申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、その貸付事業に使用しているときは、その宅地等は小規模宅地等の特例の対象となります。
なお、「被相続人の貸付事業を引き継ぐ」場合とは、被相続人から被相続人の親族へ貸付事業が引き継がれ、更に被相続人の親族からその親族の相続人へその貸付事業が引き継がれた場合のほか、被相続人から被相続人の親族の相続人へ直接引き継がれた場合も含まれます。