賃貸相談
月刊不動産2021年9月号掲載
貸ビルテナントの破産と法的処理
弁護士 江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所)
Q
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
テナントに破産手続開始決定がなされたとしても、それによって当然に建物賃貸借契約が終了するわけではありません。破産により賃貸借の解除権を有するのは、現行破産法のもとでは破産管財人です。平成16年以前にはテナントが破産すると、民法上、賃貸人に契約の解除権が認められていましたが、現在では当該民法の規定は削除されています。その結果、現在では、賃借人が破産した場合には、賃貸借契約の解除権は破産管財人のみが有するとされています。賃貸人は、破産管財人に対し、相当期間を定めて、賃貸借契約を解除するのか継続するのかの回答を求めることができ、期間内に破産管財人から回答がない場合は賃貸借契約は解除したものとみなされます。
破産手続開始決定後の賃料については、破産手続開始決定前に発生した賃料は破産債権として配当の対象となりますが、破産手続開始決定後に発生した賃料は財団債権として、破産財団の状況により随時弁済を求めることができるものとされています。 -
1. テナントの破産とビル賃貸借契約の帰趨
貸ビルの賃貸借契約において、テナントが破産手続開始決定を受けた場合、賃貸人としては、賃貸借契約が直ちに終了するのか、それとも今後も契約関係が継続されるのかということが気になるところだと思われます。平成16年以前は、民法旧第621条により、賃借人が破産した場合には、期間の定めがあるときでも、賃貸人は賃貸借契約の解約を申し入れることができ、賃貸借契約を解約することにより損害が発生しても、賃貸人、賃借人の双方ともに損害賠償を請求できないと定められていました。しかし、この規定は、破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成16年6月2日法律第76号)により廃止されています。その結果、現在では、賃借人が破産した場合に、賃貸人が賃貸借契約を解約することは認められません。
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2. テナント破産の場合の破産法の規律
破産法53条1項によれば、テナントが破産した場合には、賃貸借契約を継続するか、それとも解除するかは、専ら、テナントの破産管財人の選択に委ねられることとされています。破産管財人は通常は賃貸借契約を解除することが多く、破産管財人が賃貸借契約を解除する場合には、破産裁判所の許可を得ることは通常必要ないものとされています。
これに対し、賃貸借契約の継続、すなわち、破産管財人が賃貸人に対し、賃貸借契約の継続を選択する場合には、破産法78条2項9号により裁判所の許可が必要とされています。 -
3. テナント破産の場合の賃貸人側の対応手段
現在の破産法のもとでは、賃貸人は、自らは賃貸借契約の解除を決定することができず、テナントの破産管財人が賃貸借契約を解除するか継続を選択するかを、待つだけになります。
このような場合に、賃貸人の取り得る手段としては、破産法53条2項に基づき、破産管財人に対し、相当の期間を定めて、賃貸借契約を解除するのか履行の選択をするのかについての催告をして、破産管財人の回答を求めることができるものとされています。催告期間内に破産管財人から回答がない場合は、賃貸借契約は解除されたものとみなされます。 -
4. 賃料の処理
次に問題となるのは、破産手続開始決定がなされたことにより、賃料がどのようになるのかということです。
破産手続開始決定前に生じた賃料債権等は破産債権となりますので、配当手続きにより一部カットされることになります。破産手続開始決定後に生じた賃料債権はその後に契約が解除になる場合であっても、賃貸借が継続する場合であっても財団債権となり、配当手続きによるのではなく、破産財団の状況により、随時弁済を受けることが可能になります。