法律相談

月刊不動産2004年8月号掲載

買換えに関する問題点

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

住宅の所有者が所有物件を売却し、売却代金によって新たに物件を購入する買換えの場合、仲介業者は、どのような点に注意をしなければならないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  仲介業者としては、①所有物件売却と新規物件購入との関係を確認し、②所有物件の売却ができないときは、新規物件の売買契約を解消せざるを得ないのであれば、このことを売買契約書に明示しなければなりません。そして、③契約の解消に関しては、いかなる場合にどのような取扱いをするのかを、売買契約書に具体的に記載しておく必要があります。
     買換えといっても、所有物件の売却代金を受領した後に新規物件を購入する場合は、新規物件の売買契約において、特段の考慮を払わなくても構いません。
     しかし売買契約では、原則として、物件を引き渡さないうちは代金の受領はできません。所有物件の売却が決まった後に新規物件を購入するケースでも、居住中の物件を他人に引き渡すことはできませんから、所有物件の居住中に売買代金を受領しておくことは、普通は無理なことです。所有物件の売却代金の受領は、新規物件購入の後になってしまいます。
     所有物件の売却が決まらないうちに、新規物件購入の売買契約をするのも、よくあることです。この場合は、新規物件について、所有物件が売却できるかどうか不確実な段階において購入することになります。そのため新規物件の売買契約締結に際しては、所有物件を売却できなかったときにどのように対応するのかを考えておく必要があります。
     もし買主が、買換えによる売却代金がなくとも、手持ち資金かあるいは別の資金調達によって、新規物件を購入できるのであれば、買換えに関する特段の取扱いは必要がありません。
     他方所有物件の売却代金を得られなければ、新規物件が購入できなくなるのであれば、このことを売買契約に特約として明示することが不可欠です。単に口頭での取り決めとしておくだけでは、後日のトラブルの原因となります。
     買換えに関する特約を売買契約書にもりこむに当たっては、何を、いつまでに売却できなければ、どのような効果を生ずるのかを、一義的に明確にしておかなければなりません。
    単に、「買主は自己の所有物件を売却できないときには契約を解除することができます」という文言だけでは、売却について、対象物件も期限もいずれも特定できていませんので、契約書の文言として十分ではありません。
     新規物件の売買契約書には、「平成○年○月○日までに、買主がその所有する○○所在○○平米の土地及び○○所在木造2階建て○○平米の建物の売買契約をすることができないときは」として、契約を解消する場合の前提を決めた上で、「買主は、本契約を解除することができます」あるいは「本契約は当然に効力を失います」という条項を入れることが必要です。「売主は受領した金員全額を無利息で買主に返還する。買主は売主に損害賠償の責を負わないものとする」など、解除等の後の処理の条項も決めておくべきでしょう。また場合によっては、売却代金の下限や契約解除をなし得る時期の定めが必要になることもあると思われます。
     宅建業法の書面(契約書)交付に関する条文(37条)には、買換えに関する事項を記載しなければならないことは、直接には明示されていません。しかし、買換えに関する特約は、売買契約の当事者にとって重要な事柄です。国土交通省も、「買換え時において依頼した物件の売却が行われないときの措置について、本条の規定に基づき交付すべき書面に明記することが望ましい」(「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」、37条1項関係)としています。
     なお、買換えを検討している顧客は、売却代金を購入資金に充てることについて、売却代金から譲渡の費用や税金が差し引かれることを忘れがちです。特に譲渡の費用は決済時に必要ですが、税金は後日賦課されますので、買換者にとっての予期せぬ負担となってしまうおそれもあります。仲介業者は、媒介手数料などの譲渡の費用を顧客に説明するとともに、あらかじめ税理士などと打合せを行い、譲渡に伴う税金のあらましを理解しておいてもらう必要があります。

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