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買付証明書の法的性格

渡辺 晋
山下・渡辺法律事務所 弁護士

質問

 当社所有の土地を売却するため、買受希望者を探したところ、A社から購入の意向が示され、売買代金6,400万円で購入する旨の買付証明書も提出されました。ところが、その後、売買契約書を作成する前に、A社は態度を翻し、購入をしないといってきました。買付証明書の提出をもって、売買契約が成立したという主張ができるでしょうか。

 

月刊不動産2016年02月号掲載
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回答

Answer

 買付証明書の提出だけでは売買契約は成立せず、A社に対して売買契約の成立

を主張することはできません。

売買契約の成立について

 一般に、契約成立には、書面は不要であり、特別の方式は必要がありません。口頭であっても申込と承諾が合致すれば契約は成立します。また売買成立について民法は、「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」(第555条)と定めています。そのため売買の対象が特定され、売買代金が決まれば、口約束でも売買契約が成立するようにもみえます。

 しかし不動産は生活に不可欠の重要な財産であり、しかも売買代金は高額ですから、不動産取引は慎重かつ確実に行われなければなりません。そこで通常は、口約束だけではなく、契約書という書面を作成することによって、契約が締結されています。

 裁判所も「相当高額となる土地の売買にあっては、土地所有権の移転と代金の合意のほか、いわゆる過怠約款を定めた上、売買契約書を作成し、手付金もしくは内金を授受するのは、相当定着した慣行であることは顕著な事実である。この慣行は、重視されて然るべきであり、慣行を重視する立場に立てば、土地の売買の場合、契約当事者が慣行に従うものと認められるかぎり、売買契約書を作成し、内金を授受することは、売買の成立要件をなすと考えるのが相当である。」として、契約書の作成による契約締結を、定着した慣行であると判示しています(東京高判昭和50.6.30)。

買付証明書の法的性格

 売買に向けた交渉の中で、買受希望者から、単に口頭で買い受けを申し出るだけではなく、買付証明書が提出されることがあります。多くの買付証明書では、詳細な契約条件は記載されていませんが、対象物件を特定したうえで、売買代金を記載して、買い受けの希望があることが示されています。

 ところで、買付証明書には、対象物件と売買代金が記載されることから、これをもって、売買契約が成立したのではないかと考えられることもあります。しかし、一般に、買付証明書の提出だけでは売買契約は成立していない、と考えられています。

 大阪高判平成2.4.26では、買付証明書と売渡承諾書が取り交わされていた事案において、売買契約が成立したかどうかが、争われました。裁判所は、「⑴いわゆる買付証明書は、不動産の買主と売主とが全く会わず、不動産売買について何らの交渉もしないで発行されることもあること、⑵したがって、一般に、不動産を一定の条件で買い受ける旨記載した買付証明書は、これにより、不動産を買付証明書に記載の条件で確定的に買い受ける旨の申込みの意思表示をしたものではなく、単に、不動産を将来買い受ける希望がある旨を表示するものにすぎないこと、⑶そして、買付証明書が発行されている場合でも、現実には、その後、買付証明書を発行した者と不動産の売主とが具体的に売買の交渉をし、売買についての合意が成立して、始めて売買契約が成立するものであって、不動産の売主が買付証明書を発行した者に対して、不動産売渡の承諾を一方的にすることによって、直ちに売買契約が成立するものではないこと、⑷このことは、不動産取引業界では、一般的に知られ、かつ、了解されている」として、売渡承諾書が送付されていても、本件不動産の売買契約は有効に成立しない、と判断しています。

 契約に向けたドラフト(草稿)と合意書が作成され、契約成立が争われた最近の裁判例としては、東京地判平成26.12.25があります。『本件ドラフト及び本件合意書の条項は,本件合意書別紙に記載された条件を基本として,未調整の条件について今後協議・交渉したうえで,正式に売買契約を締結することが予定されている内容となっている』、『非常に高額な売買代金であるにもかかわらず,文言上,その金額は確定しているとは読めない』、『所有権移転登記手続の時期等や代金決済日,表明保証責任や瑕疵担保責任等についても,本件合意書においては定められていない』などを理由として、契約が成立していないと判断されています。

契約締結上の過失

 契約成立までは、交渉当事者の間には何らの権利義務関係が生じないのが原則ですが、契約交渉が相当程度進んだ後になって、相手方から契約締結を拒まれることも、珍しくありません。契約成立に向けて交渉が進められ、相手方との間で、契約が成立することへの信頼関係が築かれる段階にまで達しているにもかかわらず、この信頼が裏切られた場合には、契約締結上の過失があったものとして、損害賠償請求が可能になります。たとえば、福岡高判平成7.6.29では、分譲マンション用地の売買につき、売買契約書等の作成と代金決済を行うことや地鎮祭の日取りまで確認された後に、買受希望者が契約締結を拒んだ事案において、売渡予定者から買受希望者に対する損害賠償請求が肯定されています。

 法律相談

Point
  • 土地の売買では、売買契約書を作成し、手付金や内金を授受するのは、相当定着した慣行です。
  • 一般に、買付証明書や売渡承諾書の提出だけでは契約は成立していない、と考えられています。
  • 最近の裁判例においても、ドラフトと合意書があっても、「合意書別紙に記載された条件を基本として,未調整の条件について今後協議・交渉したうえで,正式に売買契約を締結することが予定されている」として、売買契約が否定されました。
  • ただし、相手方との間で、契約成立への信頼関係が築かれる段階にまで達しているにも関わらず、この信頼が裏切られた場合には、契約締結上の過失として、損害賠償請求が可能になることもあります。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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