法律相談
月刊不動産2008年12月号掲載
買主についての民事再生手続開始
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
当社が売主、A社が買主となり、不動産売買契約を締結しましたが、決済前、A社に民事再生手続が開始されました。売買契約はどうなるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.回答
A社には民事再生法に基づく解除権があり、A社は、解除権を行使するかどうかを選択することができます。解除権が行使された場合は、売買契約は解除になり、解除権が行使されなかった場合には、売買契約は、予定どおり決済に至ります。
2.倒産手続の分類
さて、企業活動において、企業が経済的に破綻してしまう倒産という事態の発生は、避けることはできません。
企業が倒産に至ると、債務を整理する必要が生じます。債務整理には、法的整理(裁判所の関与と監督の下に行われる手続)と、任意整理(裁判所の法的手続を利用せず、自主的に債務を整理する手続)があります。現在では、法的整理の制度が整備されていますので、多くの場合に、法的整理が利用されています。
法的整理には、清算型と再建型があります。清算型は企業の財産を債権者に平等に分配して企業を消滅させる手続であり、破産と特別清算が清算型の手続です。再建型は債務免除という方法によって従前の債権者に協力を
求め、企業の立ち直りを図る手続です。再建型の手続には、民事再生と会社更生があります。3.民事再生手続の特色
民事再生法は、かつての和議法に代わるものとして制定され、平成12年4月から施行されています。民事再生手続は、裁判所の後見的な監督の下で、再生債務者が自主的に再建を図る手続です。手続が開始した後も、再生債務者自ら業務を遂行し、財産を管理する権限を失わないという点に特色があります(民事再生法38条1項)。
4.双方未履行の段階における双務契約の取扱い
当事者が互いに対価関係に立つ債務を負担する契約を双務契約といいます。売買、交換、賃貸借、請負などが、双務契約に該当します。
双務契約において、再生債務者と相手方との両当事者が、双方ともに履行を完了していない段階(双方未履行の段階)で民事再生手続が開始された場合、再生債務者は、①契約の解除、あるいは、②自らの債務を履行し
た上での相手方への債務の履行請求のいずれかを選択することができます(同法49条1項)。①双方未履行の場合の双務契約の解除権
双方未履行の場合、再生債務者は、契約を解除することができます。ここで、双方未履行とは、両当事者が全く履行をしていないケースだけではなく、一部の履行がなされていても、双方の債務のいずれかの履行が完了していない場合も含まれます。
②双方未履行の場合の履行の選択
双方未履行の場合、再生債務者は、契約を解除せず、自らの債務を履行して相手方の債務の履行を請求することもできます。
ご質問のケースも、売買契約という双務契約の双方債務が未履行の状況ですから、A社には解除権行使と履行の選択権があります。A社が解除権を行使すれば、売買契約は解除になり、A社が履行を選択すれば、売買契約は、予定どおり決済に至ることになるわけです。
5.催告権
再生債務者は、契約解除と履行とのどちらかを選択することができますが、他方、相手方は、再生債務者がそのどちらを選択するかが分からないうちは、法的に安定しない立場に立たされます。
そこで相手方は、再生債務者に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約解除をするか又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができることとされています(同法49条2項前段)。催告のなされた場合において、再生債務者がその期間内に確答をしないときは、解除権を放棄したものとみなされます(同法49条2項後段)。
ご質問者においても、法的な立場を安定させるために、A社に対して、催告をすることが可能です。
6 まとめ
世界経済は100年に1回の激動期にあるといわれており、法的整理の増加は避けられません。
宅建業者も、不動産取引の専門家として、法的整理の概要を理解しておくとともに、取引関係者に民事再生手続が開始することがあっても、冷静な判断ができるようになっていなければなりません。