税務相談
月刊不動産2013年4月号掲載
自宅を取壊し、敷地のみを譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の適用
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
自宅を取壊し、その敷地のみを譲渡した場合における譲渡所得の3,000万円控除の適用について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1.居住用財産の3,000万円控除の特例の概要
個人が自らの居住用財産を売却した場合は、長期譲渡所得の金額または短期譲渡所得の金額の計算上、最高3,000 万円が控除できる特例が設けられています。これを「居住用財産の3,000万円特別控除(3,000万円控除)」といいます。3,000万円控除の適用対象となる居住用財産には、次のようなものがあります。
(1)現に自分が居住している家屋
(2)居住用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した家屋
(3)(1)または(2)の家屋とその敷地
(4)(1)の家屋が災害により滅失した場合における、その敷地
2.自宅を取壊して敷地を譲渡した場合
上記1. のとおり、3,000 万円控除は、災害により自宅家屋が滅失した場合を除き、個人が自宅として使用している家屋を譲渡することを前提としています。しかし、この前提を厳しく当てはめると、例えば自宅家屋とその敷地を一体で譲渡しようとしたが、買主から家屋を除去したうえで土地のみを譲渡してほしいといわれたため、売主がその家屋を取壊して土地だけを譲渡したような場合には、自宅家屋の譲渡を伴わないので、その土地の譲渡については3,000 万円控除の適用が受けられないことになります。
このため国税庁は、租税特別措置法通達(措通)35-2 により、所有者が居住の用に供している家屋(または居住の用に供されなくなった家屋)を取壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合でも、その土地等の譲渡が次の要件のすべてを満たしているときは、3,000 万円控除の特例が適用できるとしています。
(1)その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12 月31 日までに譲渡したものであること。
(2)その家屋を取壊した後、譲渡契約の締結日まで貸付けその他に使用していない土地等の譲渡であること。
この通達での(1)の要件は、この土地の譲渡期限について、譲渡契約を締結する日が「その家屋を取り壊した日から1 年以内」と定めています。これは、土地を譲渡するためにその上にある家屋を取壊すことが多いことから、このような期限を定めることが合理的であり、かつ、土地を譲渡するための家屋の取壊しであれば、その取壊し後1 年間という猶予期間があれば、その間に土地の譲渡契約をすることは十分可能という理由から設けられているものです。
また(2)の要件は、この通達が土地を譲渡するため、その土地上の家屋を取壊す必要がある場合を考慮して設けられたことを踏まえ、その家屋の取壊し後の跡地を他に貸付けなどしていないことを定めています。
3.敷地の譲渡契約後に自宅を取壊した場合
措通35-2 の(1)は、土地上の家屋を取壊し、その後に土地の譲渡契約を締結することを前提に定められています。では、土地の譲渡契約を締結した後、土地上の家屋を取壊した場合、その土地の譲渡について3,000 万円控除の適用は認められるのでしょうか。
このような不動産取引が行われた場合の取扱いにつき、明確に規定した法令や通達はありません。ただし、措通35-2 の制定趣旨等から判断して、次の理由により3,000 万円控除の適用が認められると考えます。措通35-2(1)の要件が定められているのは、まず家屋を取壊し、その後に土地の譲渡契約を行うという不動産取引を前提にしているためです。しかし、買主と売主の力関係等の個別事情により、先に土地の譲渡契約を締結し、その後に土地上の家屋を取壊すことも、不動産取引においてはあることです。
家屋の取壊しと譲渡契約の順序が措通35-2 の書きぶりとは逆になった場合であっても、それが不動産取引の実態の一つである以上は、措通35-2 の取扱いと同様に、3,000 万円控除の適用が認められるべきと考えます。なお、この場合における家屋の取壊しの時期は、措通35-2(1)とのバランスから考えて、土地の譲渡契約締結後1 年以内に行う必要があると思われます。