法律相談
月刊不動産2004年1月号掲載
管理費・修繕積立金の滞納があるマンションの仲介
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
当社が売却の仲介を受けているマンションについて、管理費・修繕積立金の滞納があることが判明しました。仲介業務においてどのような点に注意しなければならないでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
買主は、売主の管理費・修繕積立金支払義務を引き継ぎますので、仲介業者は、買主に対し、滞納の有無と滞納額を説明しなければなりません。
区分所有法には、区分所有者が規約・集会決議に基づいて他の区分所有者に対して有する債権は特定承継人に対しても行うことができると定められています(区分所有法7条1項、8条)。管理費・修繕積立金は、通常規約・集会決議に基づきますから、買主は売主の管理費・修繕積立金支払義務を承継することになります。
住宅宅地審議会により策定された標準管理規約には「この規約は、区分所有者の包括承継人及び特定承継人に対しても、その効力を有する」という条項があり(中高層共同住宅標準管理規約(単棟型)5条)、また実際多くのマンションの規約で、管理費・修繕積立金支払義務の承継が決められていますが、このような規約の条項は、区分所有法の規定を確認したものです。
買主の管理費・修繕積立金の支払義務承継は買主が滞納を知っていたかどうかにかかわりません。もし買主が売主の滞納を知らずにマンションを購入していたとしても、売主の滞納していた管理費・修繕積立金の支払義務を引き継がなければならないことにかわりはありません。
以上の区分所有法の定めを受けて、仲介業者は、仲介に際し、区分所有権に関し、「建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額」(修繕積立金)、及び、「建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額」(管理費)を重要事項として説明しなければならず(宅地建物取引業法35条1項5号の2、同法施行規則16条の2第5号・6号)、また修繕積立金や管理費に滞納があるときには、滞納額も説明しなければならないこととされています(平成13年1月6日国土交通省総動発第3号、国土交通省総合政策局不動産業課長から各地方支分部局主管部長あて通達、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方について」)。
仲介業者に対し買主への説明義務を負わせることにより、管理費・修繕積立金に関し、買主が予期せぬ支払義務を負うことのないようにしているわけです。
仲介業者が管理費の滞納を買主に正しく伝えず、その後の適切な対応も怠ったため責任を問われた裁判例があります(東京地裁平成8年8月30日判決)。
この裁判例は、中古マンションの売買において、管理費の滞納があったにもかかわらず、重要事項説明書に「管理費清算金」は「未定」と記載し、管理費の滞納額について、「2、3か月程度の滞納があるが引渡日までには清算する」と説明していた事案です。
裁判所は、「管理費の滞納額の清算は売買契約の内容として重要な意味を有する事項であり、仲介業者は、売買契約の履行期日までにその額を明確にし、かつ、その精算がされることを約していたところ、仲介業者は、売買契約の履行期日の前日に開催された管理組合の総会において、売主の管理費の滞納額は承認されず、その額が明確にならなかったにもかかわらず、その後買主のした催告に対しては、弁護士同士で話し合ってもらいたい旨を告げたのみで何らの対応をせず、売買契約が解除される結果をもたらしたのであって、仲介業者には、売買の仲介業務の履行につき債務不履行があったというべきである」と判断しました。
マンションの仲介をするにあたっては、売主の管理費・修繕積立金の滞納を管理組合に確認することは、必要不可欠な業務です。マンション管理業者が管理組合から管理費・修繕積立金に関する問い合わせに対して回答する業務を受託している場合には、マンション管理業者に問い合わせをすれば、滞納を知ることができます。
国土交通省のマンション標準管理委託契約書には、宅地建物取引業者が組合員から委託を受けて媒介等の業務のために管理費・修繕積立金の滞納などの開示を求めてきたときは、マンションの管理業者は書面をもって開示するものとする旨が定められています(14条1項)。