労務相談
月刊不動産2024年9月号掲載
社会保険(厚生年金保険・健康保険)の適用が拡大されます
代表社員 野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所)
Q
令和6年10月より、51人以上の企業では社会保険の適用対象者が拡大されると聞きました。加入基準や実務上の留意点について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く短時間労働者は、社会保険の加入対象となっていますが、令和6年10月からは、「厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く、週20時間以上の短時間労働者」が社会保険の加入対象となります。
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51人以上の企業等とは
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短時間労働者とは
まず、社会保険の被保険者について確認します。適用事業所に使用される法人役員、正社員・フルタイム勤務者等は「一般被保険者」となります。また、パート・アルバイト等の短時間勤務者のうち、1週間の所定労働時間数および1カ月の所定労働日数が同一事業所のフルタイム勤務者の4分の3以上(以下「4分の3基準」)である方についても被保険者となります。
適用拡大により、新たに社会保険の加入対象となるのは、パート・アルバイト等の短時間勤務者のうち、4分の3基準を満たさず、次の全ての要件(4要件)を満たす方となり、これに該当する方を「短時間労働者」といいます。
①週の所定労働時間が20時間以上であること
②所定内賃金が月額8.8万円以上であること
③2カ月を超えて雇用される見込みがあること
④学生でないこと
要件①の週の所定労働時間とは、雇用契約上の労働時間であり、臨時に行った時間外・休日労働等は含みません。なお、1カ月80時間、1年160日(1日6時間、年960時間)など、契約上1週間の所定労働時間が特定されない場合は、1カ月を12分の52週(4.33週)で除して、または1年を52週で除すことで1週間の所定労働時間を算出します。
要件②の所定内賃金とは、基本給や諸手当を指し、所定外賃金である残業代、賞与等の臨時的な賃金、および最低賃金額計算にて除外される賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)は含みません。
また、最初の雇用契約期間が2カ月以内であっても、その雇用契約が「更新される旨」または「更新される場合がある旨」が明示されている場合には、要件③に該当するものとなります。
要件④について、休学中の学生、定時制・通信制の学生については、①~③の要件を満たした場合、短時間労働者となります。なお、昼間学生であっても4分の3基準を満たす場合には、一般被保険者となります(図表2)。
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年金受給者を雇用した場合
70歳未満で老齢厚生年金を受給している方を雇用した場合でも、前述した加入要件(4要件)を満たしている方については、短時間労働者(被保険者)となります。その場合、在職老齢年金制度が適用され年金の一部または全部が支給停止になる場合があります。
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兼業・副業している方の取扱い
兼業や副業により、同時に2カ所以上の適用事業所で被保険者要件を満たした場合、全ての事業所において被保険者資格を取得する必要があります。その場合、各事業所で受ける報酬月額を合算した額により標準報酬月額を決定しますが、そのためには、被保険者自身が、いずれか1つを主たる事業所として選択し、当該事業所を管轄する年金事務所等に対し、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出しなければなりません。
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加入判断の留意点
適用拡大の実施に伴い、新たに被保険者資格を取得する短時間労働者がいる場合は、各企業が資格取得届を年金事務所に届け出る必要がありますが、要件に該当するか否かは今後の働き方を含め、労使協議の
うえ決定するものとなります。要件①の所定労働時間について、雇用契約上週20時間未満であっても、業務等の都合により恒常的に実際の労働時間が週20時間以上となった場合に、被保険者となることがあります。具体的には、連続する2カ月において週20時間以上となり、引き続き同様の状態が続いている、または続くことが見込まれる場合であり、実際の労働時間が週20時間以上となった最初の月から3カ月目の初日に被保険者資格を取得します。
要件②の所定内賃金の月額8.8万円についても、連続する2カ月において実際の賃金が8.8万円以上となり、引き続き同様の状態が続いている、または続くことが見込まれる場合には、実際の賃金が月額8 . 8 万円以上となった最初の月から3カ月目の初日に被保険者の資格を取得します。なお、この場合の所定内賃金が月額8.8万円以上なのかの判定においては、名目上時間外労働に対して支払われる賃金を含めて判定しますので、ご注意ください。
年金事務所の調査が入った際、過去の勤務実態に基づいて、遡及加入を命じられることがありますので、雇用契約書上加入要件を満たしていないからといって安心することなく、定期的に(少なくとも年1回)勤務状況をみて、短時間労働者に該当するか否かをご確認ください。