法律相談

月刊不動産2012年8月号掲載

破産管財人との売買契約

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社が購入を検討していた不動産の所有者が破産し、破産手続が開始して破産管財人が選任されました。売買のための交渉と契約手続は、どのように進めればよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 回答

     破産管財人との間で、売買契約の条件の交渉を進め、条件につき合意に至ったときに、破産管財人を売主とする売買契約を締結することになります。抵当権者等の担保権者に一定額を支払い、担保権を抹消してもらうことも必要です。

    2 破産手続開始

     債務者の財産状況が悪化して支払不能となり、破産手続開始の申立てがなされると、裁判所の決定によって破産手続が開始します(破産法15条1項。以下、本稿において単に条文だけを掲げるときは、破産法の条文)。破産手続は債務者の財産を換価し、債権者への配当を行うことを目的とする手続です。財産の換価と配当を行うため、破産管財人が選任されます(74条1項)。一般的に弁護士が破産管財人として選任されています。

     破産手続では、裁判所の選任する破産管財人に破産者の所有していた財産の管理・処分をする権利があります(78条1項)。そして、配当原資として破産管財人に管理・処分権限のある財産を破産財団というところ(2条14号)、破産手続開始決定の後は、破産者の所有していた不動産は破産財団に属しますので、売買契約についても破産管財人が売主となります。

    3 破産管財人と担保権者のそれぞれの立場

     破産管財人の役割は債権者に配当することであり、できるだけ破産財団を大きくしなければなりませんから、破産管財人は、売主として不動産をできるだけ高く売るために活動することになります。

     もっとも、不動産が高く売れれば破産財団が大きくなるわけではありません。すなわち、破産者が不動産を所有していた場合、価値のある不動産に対しては、ほぼ例外なく銀行などの担保権(抵当権等)が設定されています。財産状態が悪化していたのですから、価値があって担保設定されていない不動産が残されていることは、あり得ないわけです。

     不動産の買主は、当然、担保権が抹消されなければ売買契約を締結しないし、売買代金を支払いません(担保権が付いたままでの購入は極めて例外的です)。

     他方、担保権者は、不動産の価値を把握している立場にあり、一定額の支払を受けなければ登記抹消を認めません。そこで、破産管財人は、担保権者に対していくら支払えば担保権抹消の承諾を得ることができるかという交渉をすることになります。

     売買代金から担保権者が抹消を承諾してくれる額を担保権者に支払い、費用を差し引き、残った額が財団に組み込まれることになります(財団増殖分は、通常、財団組入れといわれます)。

    4 売買契約に向けた交渉

     担保権者は、破産法上別除権者とされ(65条)、破産手続とは別に民事執行による換価(競売)を行うことができます。そこで、財団組入れに関する破産管財人と担保権者との話合いがまとまれば、売買契約締結が可能になりますが、話合いがまとまらないと、破産管財人は不動産を放棄し、不動産は競売によって債権者のために換価されることになります。

     なお、不動産が競売で換価されることと比較し、破産管財人が、担保権者の承諾を得て、売買契約によって売主によって売却することを任意売却と呼ばれています。

    5 破産財団に属する不動産の購入にあたっての注意点

    ①破産管財人が売主となる。

    ②破産管財人から不動産を購入するときには、売買代金に対しては、担保権者が強く利害を有するため、したがって、担保権者の意見も、強く反映されることになる。

    ③不動産売買では、売買契約を締結し、その後一定期間経過した後、引渡・登記手続・代金支払という決済が行われることが多いが、破産管財人を売主とする売買の場合、原則として、売買契約と同時に、引渡・登記手続・代金支払を行う一括決済が求められる。

    ④破産管財人との売買契約では、売主である破産管財人は、破産事件が終了すれば、破産財団とは関係がなくなる。そこで、売買契約においては、瑕疵担保責任を一切負担しない旨の特約が付される。破産財産に属する不動産を購入するに際しては、購入後に万一瑕疵が判明しても、売主に対して責任追及できない。

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