税務相談
月刊不動産2013年1月号掲載
相続財産の代償分割が行われた場合の相続税
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
遺産分割において代償分割が行われた場合の相続税の計算について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.代償分割とは
遺産分割は、相続財産、すなわち被相続人(亡くなった人)が所有していた財産を相続人が分割するのが一般的な方法です。ただし、相続財産の大部分が土地で、相続人は複数おり、各相続人は土地の共有による相続を望まないが、相続分相当の財産は取得したいという場合には、単純な相続財産の分割では相続人の希望を満たすことは困難です。このような場合、相続人の一人が相続分を超えて相続財産である土地を取得し、その代わりに、相続分に満たない相続財産しか取得しない他の相続人に対し、不足する相続分相当額を自分の固有財産から提供する方法が採られることがあります。この遺産分割の方法を、「代償分割」といいます。
2.代償分割が行われた場合の相続税の計算
代償分割により相続財産の分割が行われた場合、相続財産を現物で取得した相続人は、相続分を超えて相続財産を取得する代償として、固有財産(代償財産)を提供し、他の相続人に対して不足する相続分に相当する額の債務(代償債務)を負担します。この場合における相続税の課税対象額(課税価格)の計算を解説すると、次のとおりとなります。
(1)代償財産を交付した相続人の課税価格
相続または遺贈により取得した財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額が課税価格となります。
(2)代償財産の交付を受けた相続人の課税価格
相続または遺贈により取得した現物の財産の価額と、交付を受けた代償財産の価額の合計額が課税価格となります。
(3)代償財産の価額
上記(1)と(2)の場合の代償財産の価額は、原則、代償分割の対象となった財産を現物で取得した人が、他の相続人等に対して負担した債務の額(相続開始時の金額)になります。
ただし、次の場合においては、それぞれに掲げる金額が代償財産の価額となります。
①代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、代償債務の額がその財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されている場合には、次の算式で計算した金額が、代償財産の価額となります。
(算式)代償債務の額×代償分割の対象となった財産の相続開始時の相続税評価額÷代償分割の対象となった財産の代償分割の時の通常の取引価額(時価)つまり、代償分割の対象財産について、相続税評価額ではなく通常の取引価額(時価)を基に代償債務の額が計算されているときは、相続税の課税価格の計算上、代償財産の価額は、実際に負担された代償債務の額を相続税評価額ベースの価額に引き直すことになります。
②相続人等の全員の協議に基づき、①の方法に準じた方法または他の合理的と認められる方法で代償財産の額を計算して申告することも認められます。
(4)代償分割が行われた場合の相続税計算の具体例
被相続人甲の相続人が子のA と子のB の二人であり、相続人A が相続財産である土地(相続税評価額8,000万円、代償分割時の時価1 億円)を取得する代わりに、相続人B に対し現金4,000万円を支払った場合、A とB の相続税の課税価格は次のとおりに計算します。
①相続人Aの課税価格は、8,000万円(土地の相続税評価額)-4,000万円(代償財産である現金の額4,000万円)=4,000万円となります。
②相続人Bの課税価格は、4,000万円となります。
ただし、代償財産である現金4,000万円が、相続財産である土地の代償分割時の時価1億円を基に決定された場合、AとBの課税価格は次のとおりに計算します。
③Aの課税価格は、8,000万円-{4,000万円×(8,000万円÷1億円)}=4,800万円となります。
Bの課税価格は、4,000万円×(8,000万円÷1億円)=3,200万円となります。
4.金銭以外の資産を代償財産として交付する場合
代償財産として交付する財産が不動産など金銭以外の財産の場合は、代償債務を履行するために資産を譲渡したことになります。その履行のために財産を交付した人は、その履行時の時価により、その資産を譲渡したものとして、譲渡所得税と住民税が課税されます。
一方、代償財産を取得した人は、代償債務の履行時の時価により、その資産を取得したことになります。