法律相談
月刊不動産2003年1月号掲載
相続物件の売買について注意すべき点を教えてください。
弁護士 草薙 一郎()
Q
相続物件の売買について注意すべき点を教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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【Q】
相続物件の売買について注意すべき点を教えてください。【A】
売買の対象となる物件の登記簿謄本で所有名義人がどうなっているかをまず、確認すべきです。
都市部では最近あまりありませんが、地方では先代名義等のままになっている土地もあります。このような土地については、今回の相続の対象となる被相続人の所有する土地とは当然には言えない土地もあるので注意が必要です。
その他、抵当権の存否の確認などは一般の物件のときと同様です。【Q】
相続物件は遺産分割ができないと売却できないのでしょうか。【A】
相続によって共同相続人がいるときは、共同相続人全員で売却することはできますので、遺産分割協議が完了しないと売却できないということではありませんが、一般的にはあまりないでしょう。
もし、分割協議が近日中にできるということを前提に売買をするというケースがあるときは、以下の点に注意してください。
民法909条但書によると、遺産分割は相続開始のときにさかのぼって効力は生じるものの、第三者の権利を害することはできないと規定されています。
遺産分割で、ある土地をAが単独相続すると共同相続人が決めた場合には、その土地は相続開始のときからAが相続したこととするのが、同条本文の意味です。
しかし、分割協議の完成前に、第三者がA以外の相続人の相続持分に仮差押などをかけて、その旨の登記をしたようなときは、その後にその土地をAが相続しても、Aはその仮差押などを同法909条本文を根拠に無効であるとの主張はできないとするのが同条但書の規定です。
したがって、遺産分割が完了する前の売買は、相続人らが売却したいと考えていても、第三者の登記が入ると円滑に売買できない危険性があります。【Q】
分割協議が完了したあとなら安心でしょうか。【A】
分割協議が完了したあとであれば、同法909条の問題は生じませんが、相続登記が未了のときに、第三者の登記がつけられてしまうと、先に登記をした第三者の権利が優先するとするのが裁判所の考え方となっています。
したがって、遺産分割協議が完了した証拠としての遺産分割協議書が存在して、相続人の中の一人が単独相続することになったとしても、他の相続人の債権者が差押の前提として共同相続の登記を代位でつけて、この相続人の相続持分のうえに差押登記をつけてしまうと、その差押登記のほうが優先してしまい、単独相続をした者は、その差押登記に対抗できないということになります。
そうなると、売買は円滑には行きません。
したがって、相続物件については、分割協議により相続登記をしたあとの方が安心です。
しかし、実務的には分割協議による相続登記を一緒に売買をするケースが多いようです。
したがって、売買の直前に登記簿謄本の確認をしておくことが大切です。
なお、遺言書による相続というケースもあります。
遺言書による場合も、相続登記後ですと一応安心ですが、他の相続人に遺留分が認められるようなときは(例えば妻や子供たちが相続人になっているようなとき)、他の相続人から遺留分減殺の請求を受けることもあり、相続登記前の受遺者の地位は不安定ですので、注意して下さい。