税務相談

月刊不動産2008年6月号掲載

相続土地の譲渡に係る相続税の取得費加算特例について

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

相続により取得した土地を譲渡した場合の、譲渡所得に係る相続税の取得費加算の特例について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 制度の概要

     相続財産を、相続発生日の翌日から相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡した場合、その譲渡所得の計算上、その人が負担すべき相続税のうち一定金額を取得費に加算することができます。これを相続税の取得費加算の特例といいます。

     相続財産を納税資金確保のために譲渡して換金した場合、その譲渡益は譲渡所得とされ、所得税と住民税が課税されます。この譲渡所得の計算は、譲渡収入からその財産の取得費と譲渡費用を差し引いた残額となるのですが、相続財産の譲渡については、その財産を相続したときに支払った相続税の一部を取得費として加算することを認めるのが相続税の取得費加算の特例です。この特例を使うことにより譲渡所得が少なくなりますので、税金の納税による手取金額の減少を抑えることができます。

    2. 譲渡所得の計算方法

     相続税の取得費加算の特例の適用を受ける場合の譲渡所得の計算は、次のようになります。

     譲渡収入金額 -{(取得費+取得費加算額)+譲渡費用 }= 譲渡所得の金額

     取得費に加算される相続税は、相続財産の種類に応じ、次のようになります。

    (1) 譲渡する相続財産が土地等以外の場合

     譲渡者が納付した相続税額 × 譲渡者が相続した財産のうち譲渡資産に係る相続税評価額 ÷ 譲渡者が相続した財産に係る相続税評価額の合計額(債務控除前)= 取得費加算額

    (2) 譲渡する相続財産が土地等の場合

     譲渡者が納付した相続税額 × 譲渡者が相続した土地等の相続税評価額 ÷ 譲渡者が相続した財産に係る相続税評価額の合計額(債務控除前)= 取得費加算額

     なお、相続した土地等の中に、物納した土地等又は物納申請中の土地等がある場合には、それらの土地等は算式の分子のすべての土地等から除かれます。

    3. 相続土地を譲渡する場合の留意点

    (1) 譲渡税が無税になる譲渡金額

     相続した土地を譲渡して相続税の納税資金に充当する場合があります。このような場合には、相続税の取得費加算の特例を最大限に活用する必要があります。したがって、相続税の取得費加算により譲渡所得税・住民税が無税となる土地等の譲渡金額を把握しておくことが極めて重要になります。

     譲渡所得税・住民税が0円 (つまり譲渡所得の金額が0円) となる場合の譲渡金額をP、譲渡土地の取得費は実額が不明のため譲渡金額の5%とすると、Pの金額は次の算式により計算できます。

     P - { P × 5% + 譲渡者が納税した相続税 × 譲渡者が相続した土地等の相続税評価額 ÷ 譲渡者が相続した財産に係る相続税評価額 (債務控除前)+ 譲渡費用 } = 0

     ∴ P = { 譲渡者が納税した相続税 × 譲渡者が相続した土地等の相続税評価額 ÷ 譲渡者が相続した財産に係る相続税評価額(債務控除前)+ 譲渡費用 } ÷ 0.95

    (2) 遺産分割と取得費加算特例

     遺産分割を工夫することにより、取得費加算の特例をフル活用することができます。相続した土地等を譲渡しようとする相続人がいる場合には、その相続人が譲渡予定の土地以外の土地も合わせて相続するような遺産分割を行うことにより、取得費加算額を増加させ、譲渡所得税・住民税を軽減することが可能になります。

    4. 適用を受けるための手続

     相続税の取得費加算の特例の適用を受けるためには、次の手続を行う必要があります。

    (1) 特例を受けようとする年分の所得税の確定申告書に、適用を受ける旨の記載をすること。具体的には、申告書の「特例適用条文」欄に、 「措法39条」と記載します。

    (2) 「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を添付します。

    (3) 次の書類を添付します。

     ①相続税の申告書第1表の写し、②相続税の申告書第11表「相続税のかかる財産の明細書」の写し、③相続税の申告書第14表「純資産価額に加算される贈与財産価額の明細書」の写し

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