法律相談
月刊不動産2021年10月号掲載
目隠しの設置請求
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
自宅の隣地に2階建ての賃貸アパートが建ちました。アパートの外廊下が、境界線から1メートル弱のところに接近しており、自宅の様子が見られてしまうのではないか心配です。アパートの所有者に対して、目隠しを設置するように請求することができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 回答
目隠しの設置を請求することはできません。目隠しの設置義務があるのは、建物の居室(独立した居住空間)から恒常的に見通される場合です。自宅が見通されるおそれがあるとしても、外廊下から見られる可能性があるだけでは、目隠し設置が義務づけられることにはなりません。
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2. 民法235条
(1)民法の規定
人の生活は、その生活の場である住居について、プライバシーが守られ、他人からのぞき見される心配がない状態を保持することによってはじめて、平穏さを保つことができます。建物建築には境界線から5 0センチメートル以上の離隔距離を必要としますが(民法234条1項)、離隔距離を保持したとしても、境界線の近くに窓や縁側、ベランダが設けられると、他人から眺められるような不快な感覚を抱かざるを得ません。
他方で、土地の所有者は、自分の土地上に自由に建物を建築する権利を有するのであって、隣地の住民の生活を守る必要があるとはいえ、過度な制約を加えることは適当ではありません。
そこで、民法は、日常生活におけるプライバシーの確保と土地利用の自由とのバランスを考慮して利害を調整し、「境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならない」と定めました(民法235条1項)。この場合の境界線からの距離は、「窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出」されます(同条2項)。(2)他人の宅地を見通すことのできる窓・縁側
他人の宅地を見通すことのできる窓・縁側とは、他人の宅地を観望しようと思えば物理的にいつでも観望できる位置と構造を有する窓・縁側です(さいたま地判平成2 0 . 1 . 3 02008WLJPCA01309015)。他人の宅地を見通すことができるかどうかは、個別の事案ごとの判断となりますが、垂直な位置関係にあって真正面から向かい合っているわけではなく、仮に建物方向を見たとしても建物の東北端の一部分が見えるにすぎない状況(東京地判昭和61.5.27判タ626号154頁)、浴室に設置された換気用の窓であっても、同様に浴槽内からわざわざのぞき込まないかぎり宅地内を見ることはできない状態(東京地判平成5.3.5判タ844号178頁)について、それぞれ宅地を見通すことのできる窓とはされませんでした。
東京地判令和 2.2.7 2020WL-JPCA02078022では、建物の居室の玄関ドアの外側に設置され、居室の居住空間とは独立した通路について、目隠しの設置義務があるかどうかが問題とされました。 -
3. 東京地判令和 2.2.7
隣地の住民Xから、建物所有者Yへの請求に関し、民法235条1項に基づく目隠しの設置義務の有無について、次のとおり述べ、目隠しの設置義務が否定されています。『民法235条1項において、目隠しの設置の対象が窓又は縁側(ベランダを含む)と
された趣旨は、これらのものが独立した単位の居住空間と外部との接点であり、居住の一環として隣接地を眺める居住者の視線が恒常的なものであるため、そのような視線から目隠しをもって保護することとしたものであると解されるところ、本件各廊下は、各居室の外部にあり、各居室の居住空間とは独立した通路であって、各居室を通過することなく外部から出入りすることが可能であるから、仮に本件各廊下からX土地やX建物を見通すことができたとしても、独立した居住空間における居住の一環として恒常
的に見通されることとはならない。そうすると、本件各廊下は、民法235条1項にいう縁側には当たらないというべきである。したがって、Yは、Xに対し、民法235条1項に基づき、本件各廊下にそれぞれ目隠しを設置する義務を負わない』。