法律相談

月刊不動産2011年2月号掲載

瑕疵担保責任限定特約

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

消費者契約法が適用される土地売買契約(宅建業法の適用はない)において、瑕疵担保責任を引渡日から3か月以内とする特約は有効でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 瑕疵担保責任を引渡日から3か月以内とする特約は、消費者契約法10条の規定により無効です。

    2 さて、消費者と事業者の間には、取引のための情報の質と量、並びに交渉力において、構造的に格差が存在します。消費者契約法は、この格差に着目し、民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定(任意規定)の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものを、無効としています(消費者契約法10条)。

     消費者契約において、瑕疵担保責任を限定する特約が無効とされた事例が、東京地裁平成22年6月29日判決です。

    3 この判決は、X(個人)が、平成20年1月31日、Y(法人)から、瑕疵担保責任の行使期間を引渡日から3か月以内とする旨の特約(本件特約)を付して、二世帯住宅を建築する目的で土地(本件土地)を購入した(本件売買契約)ところ、引渡しから3か月以上経過した同年7月に、環境基準を超える鉛が検出されるとともに、同年8月、皮革等の燃え殻が多数埋設されていることが判明したため、Yに対して損害賠償を請求した事案に関する判断です。裁判所は次のとおり判示し、特約は無効だとして、損害賠償を肯定しました。

    4 『ア Yは法人であるから、消費者契約法2条2項の事業者に該当する。

    イ 買主による瑕疵担保責任に基づく解除又は損害賠償の請求の期間について、民法570条、566条3項は、買主が事実を知ったときから1年以内にしなければならないと規定するのに対し、本件特約は、本件土地の引渡日から3か月以内とするというものであって、瑕疵担保責任の行使期間を、買主の認識にかかわらず、その期間も1年以内から3か月に短縮するものであるから、同法の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者であるXの権利を制限するものであることは、明らかである。

    ウ (ア)本件土地の瑕疵は、環境基準を超える鉛が検出されるとともに皮革等が多数埋設されていたというものであるが、このような瑕疵は、その発見が困難であるとともに、このような瑕疵によって、買主は相当の損害を受けるものというべきところ、本件特約は、買主であるXによる瑕疵担保責任の行使期間を、瑕疵の認識の有無にかかわらず、本件土地の引渡日から3か月以内という短期間に制限するものである。

    (イ)本件では、Y代表者の兄であるBが、本件土地に皮革等の燃え殻を埋設し、その後、Y代表者が、本件土地を買い受け、Yに対し、本件土地を売却したこと、Y代表者は、平成20年1月31日の本件売買契約の締結時、Xの妻から、本件土地の従前の利用方法や埋設物の有無等の確認を求められたのに対し、居住のみに使用しており、問題はない旨回答し、埋設物の可能性を記載することなく、Xに対し、物件状況等報告書を交付したものの、その後、同年7月、環境基準を超える鉛が検出されるとともに、同年8月25日、皮革等の燃え殻が多数埋設されていることが判明したため、Xが、同年10月16日、Yに対し、本件売買契約を解除するとの意思表示をしたことが認められるのであって、Xは、適宜、本件土地の調査等を尽くしたというべきである。

    (ウ)上記(ア)及び(イ)の事情に照らせば、本件特約は、民法1条2項に規定する基本原則である信義誠実の原則に反して消費者であるXの利益を一方的に害するものであるというべきである。したがって、本件特約は、消費者契約法10条の規定により無効である。』

    5 さらにXは売買契約の解除も主張していましたが、『本件土地の瑕疵である環境基準を超える鉛は、本件土地の4か所のうち1か所から検出されたものであり、また、本件土地の瑕疵である皮革等の燃え殻は、本件土地の西側の約40㎡の範囲内の部分に多数埋設されているものであるところ、本件土地上に住宅を建築することができない程度のものということはできない。したがって、本件土地の瑕疵によって本件売買契約の目的を達成することができないということはできない。』とされ、解除は認められませんでした。

    6 消費者契約法は、施行から10年経過し、不動産取引の基本法としての地位も確立しています。新たな判例をフォローしておくことは、不動産業者としての責務です。

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