法律相談

月刊不動産2024年9月号掲載

犯罪による収益の移転防止に関する 法律上の取引時確認

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 犯罪収益移転防止法上、宅建業者は、法人が顧客となる取引を行う場合、どのような事項を確認する必要がありますか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  法人が顧客の場合、宅建業者が確認すべき事項は、①本人特定事項(名称、本店または主たる事務所の所在地)、②取引を行う目的、③事業の内容、④実質的支配者の確認(その者の本人特定事項)です。現に特定取引の任に当たっている者についての、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)も確認が必要です。

     

  • 犯罪収益移転防止法

     さて、犯罪収益移転防止法(以下「犯収法」または「法」)は、犯罪による収益の移転の防止を図ることを目的とする法律です。マネー・ロンダリング(資金洗浄)防止法(マネロン法)ともいわれます。
     犯収法では、金融機関など49の業種が、特定事業者として位置づけられ、所定の措置が義務づけられます。宅建業者は特定事業者ですから、同法に定められる義務を履行しなければなりません。

     

  • 3つの義務

     犯収法によって特定事業者に義務づけられる措置は、〔1〕取引時確認、〔2〕確認記録・取引記録の作成・保存、〔3〕疑わしい取引の届出の3つです。

     

    〔1〕取引時確認(法4条)

     取引時確認は、本人特定事項により、(1)顧客が実在する特定の自然人(個人)または法人であることを明らかにし、(2)現実に取引行為を行い、あるいは行おうとしている相手方が、顧客と同一であることを確かめ、届出を要する疑わしい取引か否かの判断を容易にし、(3)取引の動機や目的等を明らかにするための手続きです。
     顧客が自然人の場合には、①本人特定事項(氏名、住居、生年月日)、②取引を行う目的、③職業の3項目が確認事項となります。
     顧客が法人の場合には、①本人特定事項(名称、本店または主たる事務所の所在地)、②取引を行う目、③事業の内容、④実質的支配者(株式会社で25%を超える議決権を有する者など)の確認が必要です。実質的支配者がいる場合には、その者についての本人特定事項(氏名、住居、生年月日)の確認もしなければなりません。
     また法人の場合には、代表者や取引担当者が現に特定取引の人にあたります。現に特定取引の任に当たっている者についての、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)も確認が必要です(図表1)。

    図表1:取引時確認として確認すべき事項

     

    〔2〕確認記録・取引記録の作成・保存(法6条・7条)

     (ア) 確認記録の作成・保存

     特定事業者は、取引時確認を行った場合には、直ちに、確認記録を作成し、特定取引等に係る契約が終了した日から7年間、保存しなければなりません。確認記録は、取引時確認を行ったことを事後的に確認するためのものですので、確認事項のほか、確認を行った者やその状況を特定するために必要な事項が、記録事項となります。

     (イ) 取引記録の作成・保存

     また、特定事業者は、取引時確認が、どの取引と対応するものであるかを明らかにするため、取引記録を作成しなければなりません。①確認記録を検索するための事項、②取引の日付、③取引の種類、④取引に係る財産の価額(=売買代金の額)、⑤財産の移転元、移転先の名義などが記載事項です。取引記録の保存期間も7年間です。なお、宅建業法上も取引帳簿の備え付けが義務づけられていますから(宅建業法49条)、犯収法に基づく確認記録・取引記録を、宅建業法に基づく取引帳簿とともにとじておくことも、合理的な管理方法です。

     

    〔3〕疑わしい取引の届出(法8条)

     特定事業者は、業務遂行の過程において、取引で収受された財産が犯罪収益ではないか、または顧客が当事者になりすまし、犯罪収益を隠匿しようとしているのではないか、というような疑いが生じた場合には、速やかにその取引内容等を行政庁に届け出なければなりません(図表2)。たとえば、売主が「いくらでもいいから早く売りたい」と言っていたり、買主が「書類は全部、登記上の会社所在地以外に送付してほしい」と言っている場合などには、疑わしい取引と判断すべきだと考えられます。

    図表2:顧客等との取引に関するフロー図

     

今回のポイント

  • ● 犯罪収益移転防止法では、宅建業者には、①取引時確認、②確認記録・取引記録の作成・保存、③疑わしい取引の届出という3つの義務が課されている。

 

  • ● 取引時確認において確認すべき事項は、図表1のとおりである。取引が代理人や代表者によって行われる場合には、代理人や代表者、現に特定取引の任に当たっている者についての、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)も確認しなければならない。

 

  • ● 特定事業者は、確認記録を作成し、7年間保存する義務がある。また取引記録を作成し、7年間保存することも必要である。

 

  • ● 取引で収受された財産が犯罪収益ではないか、または顧客が当事者になりすまし、犯罪収益を隠匿しようとしているのではないか、というような疑いが生じた場合には、取引内容等を行政庁に届け出なければならない。

 

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