法律相談
月刊不動産2009年9月号掲載
特約の説明
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
重要事項説明書により、瑕疵担保責任負担の特約を説明しておけば、売買契約書に明文をもって定めなくとも、特約が契約内容になっているでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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重要事項説明書によって説明した事項についても、売買契約書に定めがなければ、売買契約の内容にならないこともあります。宅地建物の売買・賃貸は、生活や営業の基盤を形作る重要な取引です。宅地建物は大きな価値のある財産であり、一般の人々はそれほど度々取引に関与することはありません。しかも権利関係や法令上の制限など取引の前提として理解しておかなくてはならない複雑な事項がたくさんあります。
そのため宅建業法35条は、宅建業者に対し、売買・賃貸の契約が成立するまでの間に、取引主任者をして、書面(重要事項説明書)を交付した上での、買主・借主への重要事項の説明をさせなければならない、という義務を課しています。買主・借主が購入や賃借の前に宅地建物とその取引条件に関する重要事項を理解し、十分な情報を得た上で宅地建物を購入賃借するかどうかを判断できるようにしているわけです。
重要事項説明書に記載して説明すべき最低限度の事項は、法令に定められていますが、法令に定められていない事項であっても、買主・借主の意思決定に影響を及ぼす事柄については、重要事項説明書に記載して説明するべきです。円滑で安全な取引のために有益だからです。実際、多くの取引において法令に定められていない事項について、重要事項説明書に記載し、説明がなされています。
ところで、宅建業者の皆様の中には、重要事項説明書に記載した事項は、当然に売買契約の内容になると誤解している方がいらっしゃいます。しかし、重要事項説明はあくまでも、宅建業者が依頼者や相手方に対して一方的に情報を提供をする手続です。当然に説明の相手方が説明内容のとおり了解して、自ら表示する意思に取り込むものではありません。重要事項説明書の記載は、説明の相手方がどのような意思表示をするのかを決定するための材料にすぎないのであり、重要事項説明の内容と異なる意思が表示されることも、あり得ることです。
例えば、ガソリンスタンドとして使用されていた土地の売買契約(重要事項説明書には、瑕疵担保責任を負わないとの記載があった)に関し、引渡しの後に、ガソリンスタンドの地中基礎部分に使用されたコンクリート構造物、コンクリート塊等が多数発見された事案において、売主が重要事項説明書の記載を根拠として、瑕疵担保責任免除特約を主張した事件がありました。
裁判所は、『売買契約に先立って交付された重要事項説明書においては、売主は、買主に対し、瑕疵担保責任を負わない旨が記載されていたとの事実を認めることができる。』としながら、他方、『しかしながら、ア 売主と買主は、本件土地がガソリンスタンドとして使用されていたことを認識した上で、あえて地中埋設物の存在を前提に、本件売買契約の代金を減額するなどの話合いをしたことはない。むしろ、売主は、買主の問い合わせに対し、本件土地の地中埋設物が撤去済みであると回答している。イ 売主と買主は、本件売買契約の締結の際、本件土地西側の境界線に、別の埋設物の一部が露出していることを認識していたのであり、売主主張の瑕疵担保責任免除特約は、この点を指しているとみることもできる。以上から、売主が本件売買契約において、瑕疵担保責任免除特約を理由に瑕疵担保責任を免れることはない。』として、瑕疵担保責任免除特約の成立を否定しています(札幌地裁平成17年4月22日判決)。
なお、瑕疵担保責任の内容は、解除と損害賠償請求であるところ、宅建業者が、重要事項として説明すべき事項の中には、「契約の解除に関する事項」、「損害賠償額の予定又は違約金に関する事項」も含まれます(宅建業法35条1項8号・9号)。さらに宅建業者には、重要事項説明のほか、契約が成立したときの書面(契約書面)交付の義務もあり(宅建業法37条1項・2項)、売買契約において、契約書面に記載すべき事項として、「契約の解除に関する定めがあるときは、その内容」、「損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容」とされています(宅建業法37条1項7号、8号)。瑕疵担保責任との関係において、これらの定めにも、注意が必要です。
重要事項説明と売買契約・賃貸借契約は、宅建業者にとって業務の中核です。宅建業者がそれらの意義を誤解することがあってはなりません。改めて、契約の意味を確認しておいていただきたいと思います。