税務相談

月刊不動産2004年1月号掲載

無償返還届出書を提出し忘れている土地の評価

代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

父の土地(更地価額1億円。貸付開始時より借地権の慣行があり、借地権割合は70%の地域です)の上に10年前より同族法人A社が建物を建てて賃貸業をしています。A社は父に固定資産税額の3倍程度の地代を支払っています。本来ならば、A社に無償で土地を貸し付けた時にA社に借地権が移転するとともに、A社は借地権価額を受贈益として計上して課税を受けるべきであったと言われました。しかしA社はこれまで受贈益を計上していません。父に相続が発生した場合この土地の評価にあたって借地権部分を控除して評価できるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  お父さんの土地の評価にあたっては、A社に受贈益課税がなされているかどうかは無関係です。土地の評価は、その土地の貸与関係が賃貸借であるのか使用貸借であるのかによって取扱いが分かれます。
     賃貸借であれば土地の評価額は借地権相当額を控除して、貸宅地としての評価になります。したがって、評価額は1億円×(1-70%)=3千万円となります。
     他方、使用貸借であれば借地権はゼロとなり、土地の評価額は1億円となります。使用貸借とは、一般的に土地の固定資産税相当額以下しか地代を貰っていない関係をいいます。
     ご質問の場合は、固定資産税額の3倍程度の地代収入があるとのことですから賃貸借となり、土地(貸宅地)の評価額は3千万円となります。
     土地を賃貸借した場合、貸主である地主の土地の相続税評価は、自用地評価額×(1-借地権割合)となります。
     しかし、法人借地人との間で相当の地代を収受している場合や、無償返還届出書の提出がある場合の貸宅地の評価は次のようになります。

    (1)無償返還届出書の提出がある場合

    ・自用地評価額×0.8

    (2)相当の地代を収受している場合

     借地権の慣行のある地域において個人が法人に土地を無償で貸した場合、貸付けが開始した時点で借地権が借地人である法人に移転し、法人は受贈益を計上し、課税されることになります。
     この受贈益課税を避けるために無償返還の届出という制度があります。無償返還届出書を提出すれば借地権は借地人に発生しない取扱いになっていますので、借地人は受贈益課税を回避することができます。この場合、地主の相続にあたっては土地の評価額は、自用地(更地)評価額×0.8となります。
     他方、無償返還の届出書を提出しないケースでは、地主の相続にあたって、土地の評価額は法人に移転した借地権を差し引いた底地の価額で評価することになります。
     上記ケースでは、10年前に課税されるべきであった受贈益課税がなされないまま現在に至っているということですが、受贈益課税がなされたか否かという問題と、借地権が移転したか否かという問題は全くの別問題です。「借地権移転による受贈益を計上していないのですから、借地権は法人に移転していない」と考えて更地評価するのは誤りです。本来課税されるべきであった受贈益課税がなされていない上記ケースにおいても借地権は法人に移転しており、地主の相続にあたっては土地の評価額は借地権価額を差し引いた底地価額となります。

    (表)
     

page top
閉じる