賃貸相談

月刊不動産2014年2月号掲載

滞納家賃を回収する簡易な手続

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

借家人が家賃を3か月滞納しています。契約を解除するつもりはありませんが、何とか滞納分を支払わせたいと思います。正式な裁判手続によるのではなく、より簡易な方法はありませんか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 家賃を滞納する借家人への対応

     家賃を支払うことは借家人としての最も基本的な義務ですから、それを滞納しているということは簡単に見過ごすことはできません。

     まずは、借家人と面談し、滞納の原因を把握することが必要です。滞納の原因が一時的なものであれば、支払を一定期間猶予し、猶予期間内に全額を支払ってもらうことを期待する場合もあると思います。しかし、滞納の原因が一時的なものではなく、長期にわたり家賃の滞納が拡大する可能性が高いという場合には、やむを得ず賃貸借契約の解除を考慮するという場面もあり得ます。貸主としては、まずは滞納家賃の回収を最優先にするという場合には、正式な家賃の取立て訴訟を提起する以外に、簡易な制度として簡易裁判所による支払督促の手続と少額訴訟の手続とがあります。

    2. 支払督促手続

     賃料債権のような金銭その他の代替物等を目的とする請求については、簡易裁判所における支払督促という手続を利用することができます(民事訴訟法382条以下)。支払督促は、旧民事訴訟法では支払命令と呼ばれていた制度ですが、債権者(賃料の場合は貸主)の申立てに基づいて、その申立ての内容が真実であるか否かについての実質的な審理を行うことなく、簡易裁判所の書記官が債務者(賃料の場合は借主)に対する支払督促(旧支払命令)を出すことができるという制度です。

     支払の請求に理由があるか否かの実質的な審理をすることなく支払督促が出されるのですが、債務者が異議を申し立てずに債務を弁済すればそれで解決となります。債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に異議申立てをしない場合には、裁判所書記官は債権者の申立てにより仮執行宣言をします。なお、債権者が仮執行宣言の申立てをすることができるときから30日以内に仮執行宣言の申立てをしないときは、支払督促は効力を失いますので注意してください。債務者が仮執行宣言の送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てなかった場合には、支払督促は確定判決と同一の効力を有することになります。

     これにより借主に対して滞納家賃の強制執行ができるようになりますが、このケースのように請求する金額が多額とはいえない場合には、強制執行手続を行うよりは、借主からの任意の履行を期待できる少額訴訟手続を選択したほうが望ましい場合もあり得ます。

    3. 少額訴訟手続

     少額訴訟手続も簡易裁判所における手続ですが、60万円以下の金銭の支払の請求については、少額訴訟による審理と判決を求めることができます。ただし同一の裁判所において、同一の年に10回を超えて少額訴訟による審理と判決を求めることはできません。

    (1) 少額訴訟の審理の特徴

     少額訴訟における審理の特徴は、特別の事情がある場合を除き第1回の口頭弁論期日で審理を完了しなければならないとされていることです。当事者は第1回の期日までに全ての主張・立証を行わなければなりません。

     即時可能な証拠調べに限ります。それだけに、審理は迅速に行われ、判決の言渡しも、相当でないと認める場合を除き口頭弁論の終結後直ちに行われます。

     ただし、少額訴訟に対しては、被告は訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができ、この場合には通常の訴訟に移行することになります。

    (2)少額訴訟における判決の特徴

     少額訴訟の判決の特徴は、通常の訴訟であれば、請求を認容する場合には、弁済期日が到来したものについては直ちに全額を支払えとの判決がなされるのですが、少額訴訟の判決では、被告側の資力を考慮して特に必要があると認めるときは、判決言渡しの日から3年を超えない範囲内において、支払を命じる金銭について、その時期を特別に定めることができますし、分割払いの定めをすることもできます。また、分割払いの定めをしたときに、被告が分割金の支払を怠らなかった場合には訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをするなど、被告が最後まで分割金を支払うインセンティブを与える内容の判決も可能とされています。

     少額訴訟については、被告の資力を考慮した柔軟な判決により、被告の任意の履行を期待できるという側面があります。滞納家賃については借主の資力の面からみて強制執行が困難な場合も少なくありません。そうした場合には、任意の履行が期待できる少額訴訟手続を利用するのも一つの方法かと思われます。

page top
閉じる