法律相談

月刊不動産2009年8月号掲載

消費者契約法における瑕疵担保責任の取扱い

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

瑕疵担保責任を制限する特約が、消費者契約法に違反し、無効となることがあるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.消費者契約法上、消費者に生じた損害賠償の全部を免除する特約は無効ですから、瑕疵担保責任の全部を免除する特約は無効です。ただし、特約により、瑕疵修補義務等を定めておけば、損害賠償義務を免除することが可能となります。

    2.さて、消費者と事業者の間には、取引のための情報の質と量、並びに交渉力において、構造的に格差が存在します。消費者契約法は、この格差に着目し、事業者の行為により消費者が誤認・困惑した場合に申込み・承諾の意思表示を取り消すことができ、また、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることを定めています(消費者契約法1条、以下、単に条文を掲げるときは、消費者契約法の条文)。

    3.売買契約の売主は、隠れた瑕疵の損害賠償責任を負い、瑕疵のために契約の目的を達成できないときは、買主に契約の解除権が与えられます(民法570条本文、566条1項)。そして、この売主の損害賠償責任と買主の解除権については、民法上は、任意規定なので、法の定めと異なる特約が可能です。

    4.これに対し、消費者契約法は、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する特約を無効としており、原則的に瑕疵担保責任の全部を免除することはできません(8条1項5号)。

     ただし例外的に、瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合等には損害賠償を免除する特約も効力が認められます(同条2項)。すなわち特約により、瑕疵修補義務等を定めておけば、損害賠償義務を免除することが可能となるわけです。

     また同法には「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」との定めもあります(同法10条)。責任の全部免除するのではなく、一部免除の場合であっても消費者の利益を一方的に害するものとして無効とされる場合もあります。

    5.さらに、いうまでもなく、売主が宅建業者であれば、宅建業法上の瑕疵担保責任に関するルールも遵守しなければなりません。

     宅建業法では、

     イ. 売主が宅建業者、かつ、買主が宅建業者ではない場合、宅建業者は、瑕疵担保責任が目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法に定める責任と比べて買主に不利な特約を締結することができず(宅建業法40条1項)、これに違反する特約は無効(同条2項)

     ロ. 売主及び買主のいずれもが宅建業者である場合、宅建業法40条1項の適用はない(同法78条)。売主が瑕疵担保責任を負わないこととする特約も可能ということになっています。

    6.売買契約の主体による消費者契約法と宅建業法の適用関係をまとめると、次のとおりです。

     A-1 売主=宅建業者、買主=消費者の場合
     消費者契約法と宅建業法の両方の適用あり。

     A-2 売主=宅建業者、買主=宅建業者以外の事業者
     消費者契約法の適用はないが、宅建業法の適用はある。

     A-3 売主=宅建業者、買主=宅建業者
     消費者契約法と宅建業法のいずれの適用もない。

     B-1 売主=宅建業者以外の事業者、買主=消費者
     消費者契約法の適用あり、宅建業法の適用はない。

     B-2  売主=宅建業者以外の事業者、買主=宅建業者を含む事業者
     消費者契約法と宅建業法のいずれの適用もない。

     C-1 売主=非事業者
     買主の属性を問わず、消費者契約法と宅建業法のいずれの適用もない。

    7.現在、民法(債権法)改正の議論が進められており、消費者契約法の内容が、民法に取り入れられることになる見通しです。消費者保護の特別法として制定された条項が、民法という一般法の一部を構成することになれば、宅建業者としても、これまでよりさらにいっそう消費者の利益に適(かな)う業務が求められるようになると考えられます。

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