法律相談
月刊不動産2020年9月号掲載
水害ハザードマップ上の対象物件の位置の説明
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
宅建業法施行規則が改正され、水害(洪水、雨水出水、高潮)ハザードマップ(以下「ハザードマップ」)上の記載状況が重要事項になったと聞きました。浸水想定区域の外の賃貸物件を仲介する場合にも、説明が必要なのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 区域外、賃貸でも重説義務あり
取引対象の所在地がハザードマップに表示されているときには、浸水想定区域の外にある場合でも、重要事項説明において、ハザードマップにおける位置を示さなければなりません。売買に限らず、賃貸借であっても、重要事項説明を行う義務があります。
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2. ハザードマップにおける所在地の説明
(1)水害リスク情報の重要事項説明への追加
さて、宅建業者は、宅地・建物の売買・交換・貸借の相手方等に対して、その者が取得し、または借りようとしている宅地・建物に関し、その売買・交換・貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、書面を交付して所定の重要事項の説明をさせなければなりません。ここで、所定の重要事項については、宅建業法で明記されるほか、宅建業法施行規則にも、定められています(宅建業法35条1項14号イ)。
ところで、平成30年7月豪雨、令和元年台風19号、令和2年7月豪雨など、最近、甚大な被害をもたらす大規模水災害が頻発しています。このような状況において、不動産取引を行う際には、水害リスクに係る情報が、契約締結の意思決定を行ううえで重要な要素となります。そのために、宅建業法施行規則が改正され、説明すべき重要事項として、ハザードマップにおける宅地・建物の所在地が追加されました[ 2 0 2 0(令和2)年8月28日施行]。売買・交換だけではなく、賃貸借においても、説明すべき重要事項になります。ハザードマップとは、水防法に基づいて市町村の長が提供する図面の呼称です(水防法15条3項、同法施行規則11条1号)。市町村のHPから入手することが可能であり、また、市町村によっては、紙での配布を行っているところもあります(図表)。(2)重要事項としての説明事項
説明すべき重要事項に追加されたのは、取引対象の位置がハザードマップに表示されているときの、ハザードマップにおける取引対象の所在地です(宅建業法施行規則16条の4の3第3号の2)。
説明の具体的な方法としては、ハザードマップを示しながら、取引対象となる物件の位置を示す必要があります。ハザードマップを重要事項説明書の添付図面としたうえで、添付図面に印をつけ、本文中には「別紙のとおり」または「別添ハザードマップ参照」などと記載することが想定されます。なお、説明においては、ハザードマップにおいて対象物件の地番まで正確に示すことが求められるものではなく、おおむねの位置を示せば足りるものとされています。
取引対象が浸水想定区域の外にあっても、ハザードマップの地図上に表示されているときには、その位置を示さなければなりません。なお、浸水想定区域の外であるからといって、水害のリスクがないと取引の相手方が誤認することがないような配慮を要するとされています[宅地建物取引業法施行規則の一部改正(水害リスク情報の重要事項説明への追加)に関するQ&A3-5、3-8]。(3)そのほかの説明事項
ハザードマップは、時の経過とともに、最新の状況に応じて、更新されるものです。したがって、重要事項説明を行うに際しては、ハザードマップが将来的には更新されていくことも併せて伝えておくべきでしょう。また、宅建業法上義務づけられているのは、ハザードマップ上の取引対象の所在地ですが、水害が生じた場合には避難しなければならなくなりますから、重要事項の説明に際しては、併せて、近隣にある避難所の説明をすることが望ましいと考えられます。 -
3. まとめ
今般、ハザードマップに関する事項が重要事項説明の対象に加わりましたが、宅建業者は、水害について必ずしも詳しいわけではありません。顧客から、ハザードマップの記載内容についてより詳しい説明を求められた場合には、ハザードマップを作成した自治体に問い合わせるように回答するべきです。ハザードマップの説明は新しい制度であって、宅建業者もまだ不慣れだと思われますが、後日のトラブルが生じないように、慎重に対処しなければなりません。