法律相談

月刊不動産2008年4月号掲載

本人確認書類

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

印鑑登録証明書、戸籍の謄本・抄本、住民票の写しを利用し、犯罪収益移転防止法による本人確認をするには、それぞれどのようにしたらよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 印鑑登録証明書のうち、申込み又は承諾の書類に押印されている印鑑の印鑑登録証明書であれば、「提示のみ法」によって本人確認を行うことができます。これに対し、申込み又は承諾の書類に押印されていない印鑑の印鑑登録証明書及び、戸籍の謄本・抄本、住民票の写しについては、 「提示のみ法」によって本人確認を行うことはできません。 「提示・送付法」 、又は、「受理・送付法」により、本人確認をする必要があります。

    2. さて、犯罪収益について、その出所を隠し、あたかも正当な取引で得た資金であるかのようにみせかけることを、マネー・ローンダリングといいます。マネー・ローンダリングは、テロリストや反社会的勢力の資金調達の手段となります。平穏で安全な社会を保つため、マネー・ローンダリング防止は、重要な社会的課題となっています。

     そこでマネー・ローンダリング防止を目的として、犯罪による収益の移転防止に関する法律 (犯罪収益移転防止法、以下「法」という)が制定、平成20年3月1日に施行され、宅地建物取引業者 (以下「業者」という)を含む特定事業者の特定取引について、本人確認などが義務付けられました。

    3. 法によって本人確認などの措置が義務付けられるのは、特定取引です。業者について、特定取引は、売買契約の締結、及び、売買契約の代理・媒介とされています。よって、業者が、売買契約を自ら締結したり、売買契約の代理・媒介の業務を行う場合には、本人確認などの措置が必要になります。賃貸や交換に関する業務については、法に基づく本人確認などの措置は必要ではありません。

    4. 法によって義務付けられた措置は、①本人確認の実行、及び、本人確認記録の作成・保存、②取引記録の作成・保存です。

     ここで本人確認とは、本人特定事項 (顧客が個人であれば、氏名、住居、生年月日、顧客が法人であれば、名称と本店又は主たる事務所の所在地) を確認することをいいます (法4条1項) 。

     したがって、売買の当事者となる場合には売買の相手方について、売買の媒介を行う場合には売主と買主について、それぞれに本人特定事項を確かめ、加えて、本人確認記録と取引記録を作成しなければなりません。

    5. 本人確認には、①提示のみ法、②提示・送付法、③受理・送付法、④電子証明法の4つの方法があり、それぞれに利用できる本人確認書類が定められています。

     ① 提示のみ法 書類の提示を受ける方法 (犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 (以下、 「規則」という)3条1項1号イ) 。運転免許証 (規則4条1号ホ) 、国民健康保険や健康保険の被保険者証(同号ハ)、申込み又は承諾の書類に押印されている印鑑の印鑑登録証明証 (同号イ) を利用することができます。

     ② 提示・送付法書類の提示を受けるとともに、書類に記載されている顧客の住居宛に取引に係る文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する方法(規則3条1項1号ロ)。印鑑登録証明書のうち、申込み又は承諾の書類に押印されていない印鑑の印鑑登録証明書については、この方法によって、本人確認をすることになります。戸籍の謄本 ・ 抄本、住民票の写しもまた、この方法に利用できる書類です (規則4条1号ロ) 。

     ③ 受理・送付法 書類の送付を受けるとともに、書類に記載されている顧客の住居宛に取引に係る文書を書留郵便等により転送不要郵便物として送付。この方法には、①と②において利用できる書類又はその写しが利用できます (規則3条1項1号ハ) 。

     ④ 電子証明法 電子証明を利用する方法。電子証明に関しては、電子署名法、公的個人認証法、商業登記法などに定めがあります。

    6. 業者には、本人確認、及び、本人確認記録 ・ 取引記録の作成・保存のほか、疑わしい取引の届出も義務づけられています。取引について、犯罪収益の移転に関連する可能性のある疑わしいものであると判断した場合には、行政庁に届け出なければなりません。

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