賃貸相談

月刊不動産2008年11月号掲載

更新料支払特約の有効性

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

賃貸借契約の更新の際に、借家人に更新料を請求したところ、更新料の支払義務はないはずだと拒否されました。更新料の請求は法的には認められないのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.賃貸借契約と更新料の支払義務

    (1) 民法・借地借家法の規定と更新料の支払義務

     民法や借地借家法には、更新料についての規定はありません。法律は、更新料を支払えとも、支払う必要がないとも一切規定していないのです。
     それでは、建物賃貸借契約の更新の際に、借家人には更新料を支払う義務があるのかというと、更新料の支払義務がある場合と、支払義務がない場合とがあります。これは更新料の支払義務の根拠は何かという問題です。世間一般では、更新料というと、近隣の賃貸借住宅では多くの借家人が支払っているから、その地域においては更新料を支払う慣行が確立しており、いわば更新料を支払うのは地域の慣習法のようなものだと理解されているように思われます。

    (2) 判例と更新料の支払義務

     しかし、最高裁判所は、我が国においては更新料を支払うという慣習法が成立しているとは認められないと判断しています。つまり、更新料を支払うとの約束をしなくとも、慣習法として更新料を支払う義務が発生するとは認め難いというのが判例の見解です。
     このことは、賃貸借契約等に更新料について何も書かれていない場合には、借家人には更新料の支払義務がないことを意味します。
     それでは、借家人が更新料の支払義務を負うのはどのような場合でしょうか。それは、賃貸借契約等で、借家人が賃貸人に対して、更新料を支払う旨の合意をしている場合です。

    (3) 契約と更新料の支払義務

     賃貸借契約等で更新料を支払う旨の合意がなされていない場合には、借家人は更新料の支払義務を負いません。しかし、賃貸借契約等で借家人が更新料を支払う旨を合意していた場合には、「契約の効力」として更新料の支払義務が発生するのです。
     結局のところ、賃貸借契約等に、「契約更新の際には更新料を支払わなければならない」との規定がある場合には更新料の支払義務が発生しますし、賃貸借契約等には更新料について何も規定されていない場合には、更新料の支払義務は発生しないということです。

    2.賃借人が消費者である場合の更新料の支払義務

     借家人が消費者である場合、すなわち、当該賃貸借契約に消費者契約法が適用される場合には、更新料の支払特約は、消費者契約法違反で無効ではないかと主張されることがあります。

    (1) 賃貸借契約と消費者契約法の適用

     消費者契約法は、「事業者」と「消費者」との間の契約に適用される法律です。賃貸ビルや賃貸アパートの賃貸人は、賃貸業を営む事業者に該当します。消費者とは、個人であって、事業のためにその契約を締結するのではない人をいいます。賃貸アパートの借家人が個人であれば、アパートの契約は事業のためにするわけではありませんから、原則として借家人が個人であれば消費者に該当します。

    (2) 更新料支払特約と消費者契約法

     消費者契約法10条は、民法や商法を適用した場合に比べて、消費者の権利を制限したり、義務を加重する特約で信義則に反し、消費者の利益を一方的に害するものは無効とすると定めています。
     上述のとおり、民法では格別の合意がない限り、更新料の支払義務はないものとされていますので、更新料支払特約は民法を適用した場合に比べて、消費者の義務を加重しているのではないかとも考えられますので、更新料支払特約は、消費者契約法違反で無効なのではないかとして裁判が提起されました。
     京都地方裁判所の平成20 年1月30 日の判決では、更新料の実質は賃料の前払であると判断し、民法614条は、賃料は毎月末日に支払えば足りると定めているので、更新料により賃料の前払をする特約は賃借人の義務を加重していると判断しましたが、更新料の金額は、契約期間や賃料月額に照らし過大ではないこと、特約の内容が明確であり、その説明を受けており、借家人に不測の損害・不利益をもたらすものではないことから、消費者契約法10 条違反には該当しないとして、更新料支払特約は有効であると判断しています。

page top
閉じる