賃貸相談

月刊不動産2009年11月号掲載

更新料支払特約の有効性

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

賃貸アパートを経営しています。私のアパートでは2年間の契約期間満了の際に更新料として1か月分の家賃相当額を支払うとの特約をつけています。この特約は有効と考えてよいのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 更新料支払特約の有効性

     賃貸借契約において更新料を支払う旨の特約をした場合に、その特約が有効か無効かを争って訴訟が起こされています。この点で注目すべき判決が大阪高裁平成21年8月27日に出されました。

     事案は、賃料月額4万5,000円、敷金10万円、礼金6万円、更新料は1年ごとに10万円との約定の共同住宅の賃貸借契約です。賃借人は、賃貸借契約に定められている更新料支払特約は、①民法90条(公序良俗違反)により無効である、②民法を適用した場合に比べて消費者の義務を加重しており、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるから消費者契約法10条に該当するので、更新料を支払うとの特約は無効であると主張して訴えを提起しました。

    2. 第1審判決(京都地裁平成20年1月30日)

     第1審の京都地裁では、更新料の法的性質を検討した結果、更新料支払特約は、1年間の賃料の一部を更新時に支払うこと(いわば賃料の一部前払)を取り決めたものであると認定しました。

     更新料が賃料の一部であるとすると、賃料は契約の対価ですから、契約の対価については、それをいくらとするかは契約自由の原則が妥当する領域ですので、消費者契約法の適用対象とならないのが原則であると考えられます。

     ただし、民法は、賃料は後払を原則としていますので(民法614条)、更新料が賃料の一部前払であるとすると、前払としている点で、民法を適用した場合に比べて消費者である賃借人の義務を加重していることになりますが、京都地裁はこの程度であれば、信義則に反し、消費者の利益を一方的に害するものとはいえないと判断しています。

     そして、京都地裁判決では、更新料を定めた条項は賃借人が経済的な出捐(しゅつえん)の全体像を正しく認識することができるもので、その内容が明確であること、更新料条項は契約時に説明がなされており、賃借人に不測の損害・不利益をもたらすものではないこと、賃借人が月額賃料のみの合意だけではなく、更新料を含む経済的な出捐を合意しているといえることから、民法90条に違反するものではなく、かつ、消費者契約法10条に該当するものでもないと判断しています。

    3. 控訴審判決(大阪高裁平成21年8月27日)

     これに対し、大阪高裁判決は、上記京都地裁判決を変更し、更新料支払特約が民法90条違反ではないことは京都地裁判決と同様ですが、消費者契約法10条に該当し無効であるとの判断を示しました。

     大阪高裁では、「更新料の法的性質を検討した結果、賃料の一部前払であれば、賃貸借が契約期間の途中で解約された場合は、解約時以降の期間に相当する更新料の部分を精算しなければならないはずであるが、これを精算する規定がないこと等の事情からすると、更新料を賃料の一部前払であると認識することはできない」との判断を示しています。

     賃料の一部前払ではないとすると、更新料支払特約は、民法を適用した場合に比べて消費者の義務を加重していることは明らかとなります。問題はこの特約が信義則に反し、消費者の利益を一方的に害するものと評価し得るか否かという点にあります。

     この点について、大阪高裁判決は、「確かに更新料特約は、消費者である賃借人が賃借建物を1年間使用収益するために必要な金額が示されているとも考えられることから、一見、その条項は明確で賃借人に特に不利益は生じていないように見えなくもないが、賃借人は借地借家法の強行規定(更新料を支払わなくとも賃貸借契約は法定更新により更新されるとする規定)の存在について十分認識することができないままであったから、賃貸人と賃借人との間に情報格差が存在しており、更新料支払特約は情報収集力の乏しい賃借人から借地借家法の強行規定から目を逸(そ)らさせる面があり消費者契約法10条に該当し、無効である」との判断を示しています。

     現在、更新料支払特約の有効性については裁判例が分かれており、最高裁による解釈の統一が望まれるところです。

page top
閉じる