賃貸相談
月刊不動産2009年12月号掲載
更新料に関する異なる判決
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
更新料特約を無効とする判決が出たとのことで、アパートの入居者から、今後は更新料は支払えないし、過去に払った更新料を返還してほしいと言われています。どのように対応すべきでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.更新料支払特約の有効性に関する判決
賃貸借契約において更新料を支払う旨の特約をした場合に、その特約が有効か無効かを争って訴訟が起こされています。
これについて、先に大阪高裁平成21年8月27日判決は、賃料月額4万5,000円、敷金10万円、礼金6万円、更新料は1年ごとに10万円との約定の共同住宅の賃貸借契約の事案について、更新料支払特約は無効であるとの判決を出し、消費者契約法施行前に支払われた更新料は返還の必要はないが、消費者契約法施行後に支払われた更新料は返還すべきであると判断を示し、大変話題となったところです。
ところが、平成21年10月29日、同じ大阪高裁において、賃料月額5万2,000円、共益費月額2,000円、礼金20万円、更新料は2年ごとに2か月(3回目の更新以降は2年ごとに1か月)とする共同住宅の賃貸借契約の事案について、更新料支払特約は有効であり、過去に支払われた更新料はいずれも返還の必要はないとの判断を示しました。
そこで、事案は異なるものの、同様の争点に対して内容の異なる判決が出されている現状において、更新料について、どのように考えるべきであるかを検証しておく必要があります。
2.更新料を有効とする大阪高裁判決
平成21年10月29日大阪高裁判決は、第一審の津地方裁判所が更新料支払特約は有効であると判断したことに対する控訴審ですが、これまでの議論とはやや異なる角度から更新料を検討し、更新料支払特約は有効であると判断したものです。
判決は、共同住宅の賃貸人は、賃貸物件の建築費用等について相当額の資本を投下して賃貸事業を行うものであるから、当然のことながら、最終的には投下資本の回収を超える収益の確保を目的としている以上、収益上も可能かつ最適の対価を設定するものであるとの認識を示しています。
その観点から考えた場合、賃貸人としては、何らの対価も取得することなく賃貸借契約の更新を繰り返すよりも、短期間に異なる賃借人との間で新規の賃貸借契約を繰り返すことによって、その都度礼金を取得することのほうが経営的に有利であるが、それを実現しようとしても、借地借家法28条の規定により基本的に認められないことから、その代わりに、賃貸借契約を更新したときに、賃借権設定の対価の追加分ないし補充分として、一定程度の更新料の支払を受けることをあらかじめ合意しておくことは、「営利事業の方法として、一概に社会正義に反するとはいえないというべきである」との判断を示しています。同判決は、更新料の法的性質を「賃借権設定の対価の追加分ないし補充分と解するのが相当である」としており、「単に消費者にとって不利益というだけで、事業者の経済的利益を図った契約条項を一切無効とするものでないことは明らかである」と判示しています。
ただし、この判決は「更新料の支払義務及び金額について予め賃貸借契約書及び重要事項説明書に明記さえすれば、どのような金額の更新料であっても許されると解すべきではない」とも述べており、同事案において、1年更新する場合に2か月分の更新料を支払うということは認められないとの判断も示しています。
結論として、判決は「更新料が、賃貸借契約の締結時に支払うべき礼金の額に比較して相当程度抑えられているなど適正な金額にとどまっている限り、直ちに…(中略)…賃借人にとって信義則に反する程度にまで一方的に不利益になるものではないというべきである」としています。
3.今後の対応
上記のとおり、更新料支払特約を有効とするか無効とするかはいまだ裁判例は分かれており、確定的な解釈(最高裁判決により示されることになります)はいまだ示されておりません。
したがって、現時点においては、賃貸人としては、賃借人に対し、更新料支払特約が無効であるとの解釈が確定しているわけではありませんので、現行の賃貸借契約における更新料支払特約を遵守するよう求めることになるものと思われます。