法律相談

月刊不動産2012年9月号掲載

日影規制

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

南側に空き地がある戸建て住宅の売買仲介を行っていますが、購入希望者が、将来、空き地に日照を阻害する建物が建つのではないかと心配しています。日照については、どのような法令上の制限があるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 回答

     建築基準法は、条例で指定する区域内の建物に関し、周辺の土地に一定時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならないと定めています(同法56条の2第1項)。この定めに基づいて、各地方で日影規制条例が制定されています。どのような条例が制定されているのかは、各地方の役所やウェブページで確認できます。

    2 建築基準法と条例による日影規制の仕組

     さて日照は、快適な生活のために重視される要因の一つです。住宅を取得するに際し、日あたりの良さが重要なポイントとされることも少なくありません。他方、土地が建物の敷地として利用されていれば、周辺に建物の影が発生することも避けられません。そこで日あたりと土地の利用とのバランスを、どのように取るのかが問題となります。

     日照を確保するための制度としては、かつては建物の高さ制限があるだけでした。しかし、昭和40年代に日照紛争が増加したこと、昭和47年に最高裁から日照、通風が快適で健康的な生活に必要な生活利益であることを認める判決が出たこと(最高裁昭和47年6月27日判決)などの流れの中で、昭和51年に法改正がなされ、建築基準法にも、日影規制の規定が置かれました。日影規制は、建物の建築にあたり、建物が周辺の土地に影を生じさせる時間を数値化し、これを制約するルールです。

     もっとも、日照と土地利用のバランスを取る必要があるとはいえ、気候・風土・土地の利用状況等は地域によって異なり、全国一律にルールを決めることは、不適切です。

     そこで、建築基準法では、規制の数値を一律に定めることをせずに、一定の範囲を設定し、その範囲の中で、地方公共団体が各地域の実情にあわせ、具体的な規制値を決めるものとしました。これを受けて、各地方で条例が制定され、規制の数値が決められています。

    3 日影規制を加えることのできる範囲

    (1)規制の対象として指定できる区域は、住居系の地域、近隣商業地域、準工業地域、用途地域の指定のない区域です。商業地域と工業地域は、用途上日照の確保は必須条件ではないため、対象外となっています。

    (2)対象となる建物は、第一種・第二種低層住居専用地域と用途地域の指定のない区域では、軒の高さ7mを超える建物または地階を除く階数が3以下の建物、その他の地域では軒の高さ10mを超える建物です。

    (3)規制を算定する際の対象時間帯は、1年のうちで最も日照条件の悪い冬至日の真太陽時(太陽が真南にあるときを12時とする時刻の定め方)による午前8時から午後4時までの8時間です(北海道では、日照時間が短いために、午前9時から午後3時までの6時間)。

    (4)規制の内容については、敷地境界線からの距離が5m~10mの部分と10mを超える部分とで区別され、複数の時間が決められ(おおよそ2.5時間~5時間)、平均地盤面からの所定の高さにおいて、この規制される時間以上、建物の影が生じてはならないものとされます。平均地盤面からの高さは、第一種・第二種低層住居専用地域においては1.5m(1階の窓中心と想定される高さ)、それ以外では4mまたは6.5m(2階あるいは3階の窓中心の高さと想定される高さ)です。

    4 受忍限度

     日影規制は公法上の建築の制約ですが、日照の阻害を受けた場合には、建物建築が違法なものとして、私法上の損害賠償請求や建築工事の差止を求めることもあり得ます。この私法上の違法性については、受忍限度を超えるかどうかが判断基準となります。そして、受忍限度の判断をする際には、公法上の規制違反の有無に加え、地域性、建物の用途、日照阻害の程度、被害回避の可能性、どちらの建物が先にたったのか、交渉経緯なども、考慮されます。これらを考慮の上、損害賠償や建築工事の差止を認めるべきかどうかを、判断することになります。

    5 まとめ

     宅建業者は、消費者のニーズをくみ取り、希望の物件を提供することが、その役割です。しかし、不動産には数多い法的制約がありますから、この役割を果たすための前提として、物件の特性に応じた法的制約を理解しておくことは欠かせません。

     日影規制は、その内容が複雑であって、しかも地域によって規制内容が異なりますので、宅建業者にとっては理解が容易ではありません、しかし住まいの環境を考える時、日あたりの問題は避けて通ることはできませんから、宅建業者としては、制度を十分に理解した上で、仲介業務を行うことが必要です。

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