賃貸相談
月刊不動産2006年10月号掲載
敷金・保証金に対する利息の要否
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
テナントとの貸ビルの賃貸借契約を、テナント側が用意した契約書で行ったところ、この契約には敷金は無利息とするとの条項がなかったため、契約終了時に敷金に利息をつけて返還せよと求められています。応じる必要はあるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1.敷金・保証金の法的性格
敷金とは、賃借人の賃料支払債務など、賃借人の賃貸人に対する賃貸借契約上の債務を担保する目的で賃貸人に交付される金銭で、「賃貸借契約が終了し、賃借人の建物明渡義務の履行完了までに生ずる賃料相当額の損害金その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものであり、賃借人が賃貸人に対して有する敷金返還請求権は、賃貸借終了後、家屋明渡し完了のときにおいて、それまでに生じた上記の被担保債権を控除しなお残額がある場合に、その残額について具体的に発生する」ものと解されています(最高裁昭和48年2月2日判決)。保証金はその性格は様々であり、金銭消費貸借であるもの、いわゆる建設協力金であるもの、敷金としての機能を有するもの等いろいろなものがあり得ますが、敷金と同じく賃借人に対する債権担保として授受されることが賃貸借契約書に明記され、その額がおおむね賃料の2~3か月分(住居系賃貸借の場合)、6~12か月分(事業系賃貸借の場合)であれば敷金と同様に扱ってよいものと思われます。
2.敷金・保証金の返還の方法
賃貸人が受け取った敷金は、通常は長期間預かることが予想されているため、返済期間や具体的な返済方法、返済が完了するまでの間の利息の有無等が賃貸借契約で約定されています。
よく見られる契約条項は、「一定期間据置きの据置期間満了時からの長期分割支払」といわれるものです。いずれにしても、契約書で「敷金には利息を付さないものとする」との特約を盛り込んでいる場合には、敷金返還時において敷金に利息を付ける必要がないことは明らかです。
したがって、敷金を授受する場合には、敷金の返還に関して、(1)据置期間を設けるか否か、(2)据置期間が到来した後は一括返済とするか、それとも長期分割返済とするか、(3)据置期間満了後の分割弁済の場合に利息をつけるか否か、(4)据置期間を設けず一括返済とする場合は建物明渡し後速やかに返還するか、建物明渡し後一定期間経過後とするか等について明確に決めておく必要があります。
問題は、敷金について無利息とする旨の契約条項を定めなかった場合に、民法に定める年5%ないしは商事法定利率である年6%の利息を付して敷金や保証金を返還しなければならないかということです。
3.敷金・保証金に付する利息
金銭を預ければ利息が付くということは、最近では社会の常識のようにいわれています。
しかし、法律的に利息支払請求権が認められるかということは、当事者間の法律関係において利息請求権の発生原因事実があるかという問題です。金銭を預けて利息が付くのは、当事者間で利息を支払う旨の約定が存在するからです。例えば、お金を貸せば、当然利息が付くと思われていますが、民法の定めではそうなってはいません。
金銭の貸付けは民法では「消費貸借」と呼ばれていますが、民法では「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還する事を約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」(民法587条)と定めており、利息が発生することは消費貸借の当然の内容にはなっていません。
つまり、利息の約束をしない金銭消費貸借契約は有効ですし、その場合には金銭を借り入れても無利息ということになります。民法では、契約において、利息を支払うという特約をしていない限りは無利息が原則だということになります。
したがって、敷金や保証金を授受した場合に、契約書に「敷金・保証金は無利息とする」との文言を入れ忘れたとしても、無利息と書いてないから利息が請求できるということにはなりません。実務上の賃貸借契約書にはほとんどの場合、「敷金・保証金は無利息とする」と書いてありますが、それはあくまで注意的に記載されているものにすぎません。なお、無利息と書いてあっても、敷金の返済期日が到来した場合に返済が遅れれば当然に遅延損害金は支払わなければなりませんので、この点は注意してください。