法律相談

月刊不動産2012年6月号掲載

数量指示売買

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

100㎡程度の建物を建てるため土地を購入しましたが、引渡しを受けた土地の実際の面積が公簿面積(68.56㎡)に満たず、希望の建物が建たないことが判明しました。契約解除や損害賠償請求ができますか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 回答

     公簿売買であることが、重要事項説明や売買契約で明らかにされていれば、契約解除や損害賠償請求はできません。

    2 事案

     Y1所有の土地を、仲介業者であるY2会社を通じて買い受けたXが、購入後、実際の土地面積は公簿面積よりも狭かったとして、Y1に対し、数量指示売買における担保責任を根拠に契約を解除し、代金の返還を求めた事案がありましたが、裁判所では、売買契約は実測面積と異なる可能性の予定されている公簿売買であって、数量指示売買とはいえないとして、請求が棄却されています。Y2会社に対しても、土地の奥行きがチラシに記載された長さには足りなかったことなどから、説明義務違反(不実告知)を根拠として、損害賠償が求められましたが、これも否定されました(東京地裁平成24年4月18日判決)。

    3 裁判所の判断

    『(1)数量指示売買について

     民法565条のいわゆる数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数又は尺度あることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買をいう(最高裁昭和43年8月20日判決参照)。

     この点、確かに、Xは、90㎡から100㎡の建物が建てられる土地を探していたこと、地積測量図の寸法にも着目して本件売買契約を締結したことが認められるが、土地売買契約書には、第2条で「売主及び買主は本物件の対象面積を標記面積とし、実測面積との間に差異が生じても互いに異議を申し立てないとともに、売買代金増減の請求をしないものとする。」、特約条項で「本契約物件は現状有姿の公簿取引とする。」と記載されていること、重要事項説明書には「登記簿面積合計68.56㎡」と記載され、「実測面積合計」は空欄であったことからすると、
    本件売買契約は実測面積と異なる可能性が予定されている公簿売買であるといえること、Y1は、Y2会社に本件土地の売買の仲介を依頼し、測量をしないかわりに近隣相場より低価格で売買することにし、Xも相場より安いことを認識していたこと、本件土地売買契約は土地面積68.56㎡、売買代金4,600万円とする内容のものであるが、これによると1㎡あたり67万945.157526円、坪単価221万9,006.2711円という端数のある金額となり、面積を基礎に売買代金額が決められたとは考えられないこと、
    他にXとY1らとの取引の経過の中で、特に本件土地の実測面積や奥行きの長さを基礎に売買代金額が決定されたと認めるに足りる証拠もないことからすると、本件売買契約は数量指示売買とはいえないものというべきである。したがって、これを前提とするXの主張は採用できない。

    (2)説明義務違反について

     Xは、地積測量図にはない本件土地の東側奥行長さ10.39mが重要事項説明書や本件チラシに記載されていることは、Y2会社に本件土地の奥行長さに関する不実告知があると主張する。この点、重要事項説明書と本件チラシの図には奥行長さ「約10.39m」と記載されており、正確な数値ではないことが窺われるのであるが、重要事項説明書のうちの敷地と道路との関係図には本件土地の東側の奥行長さは10.05mとされているのであり、買主に重大な誤信をさせるものともいえず、また、
    もともと本件売買契約は測量を行わない代わりに相場より低い売買代金額で売り出された現況有姿の公簿売買であり、このことは本件売買契約書や重要事項説明書を見ても明らかであるから、本件土地東側奥行長さを測量せず、10.39mに満たないとしても不実告知に当たらないものというべきである。』

    3 まとめ

    (1)土地の売買において、契約上一定の面積確保を要するものとして、その面積を表示し、かつこの面積を基礎として代金額を決めていれば数量指示売買となりますが、実際の土地取引が数量指示売買とされることは稀です。また、実測売買は、契約書上公簿面積によって一応の売買代金を定めた上、決済前に実測を行い、公簿面積と実測面積の差について清算を行う取引方式ですが、多くの場合、土地売買は、実測売買ではなく、公簿売買(このような清算を行わない取引方式)で行われています。

    ただ、取引になれていない一般の消費者は、この差異を誤解している場合もあります。したがって、取引にあたっては、購入者に対して、清算の有無を十分に説明をしておくことが望まれます。
    (1)また、チラシは不動産取引の基礎となる重要な役割を担っており、不正確なチラシはトラブルの原因です。チラシを作成するにあたっては、念入りに記載内容の正確さを確認しなければなりません。

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