賃貸管理ビジネス

月刊不動産2024年1月号掲載

提案力を高める営業スキルを培う、ロールプレイングの方法

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 営業スタッフの育成に悩んでいます。当社は比較的自由主義で、これまではそれぞれの営業手法に任せてきましたが、営業成績(管理受託や入居率)は伸び悩み、対応についてもオーナーからお叱りを受けることが多々あります。これを機に社員の育成を考えているのですが、何かよい手立てはないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     自由放任主義で成果が最大化される場合もありますが、完全固定給主体の環境では、あまり得策とはいえません。スポーツでも仕事でも、まずはトレーニングがなければ成果を上げることができないのです。徹底的なトレーニングを終えた後での自由主義はよいかもしれませんが、まずは足元を見直して社員育成をしてみてはいかがでしょうか。

  • 信頼関係を構築するために必要なこと

     繁忙期は、入居の需要が一気に高まる黄金期です。反響や内見が増えるのですから、オーナーとの接点が増え、よい信頼関係を作るにはこれ以上のタイミングはありません。しかし、提案の仕方一つで、オーナーの受け取り方はまったく変わってしまいます。伝えたいことを、よりコンパクトに丁寧に、かつオーナーの立場に立って伝えられなければ、よい信頼関係は構築できないのです。たとえば、スポーツ選手は成果を出すために、日夜トレーニングに励みます。では営業の仕事ではどうでしょうか。繁忙期(シーズン)に向けて、満足のいくトレーニングを行ってきたのでしょうか。おそらく成果を上げられない人というのは、トレーニング不足に陥っている可能性が高いのです。

  • 営業マンのトレーニングは「ロールプレイング」で培う

     営業マンのトレーニングには、いろいろな方法がありますが、一番実践に近いのは「ロールプレイング」だと思います。ロールプレイングとは、接客やオーナーへのプレゼンなどの実践を想定して行う、いわば「実践型予行演習」のことです。ロールプレイングの実践方法を聞くと、案外しっかりと決められていないことがほとんどです。ロールプレイングの内容は実際の「プレゼンテーション」と、終了後の「フィードバック(アドバイス)」に構成が分かれます。通常、ベテランの先輩がお客様(オーナー)役で、経験の浅い後輩が営業スタッフという設定で行われますが、このロールプレイングを実施する中で、成果を出すためには2つの重要なポイントがあります。それはプレゼンそのものではなく、「事前準備」と「フィードバックの方法」です。

  • 成果を高めるロールプレイングの方法

     ロールプレイングは、現実性のあるものでなければ、緊張感が生まれず、ただ時間を無駄に使うことになってしまいます。機会を最大化するための予行演習なのですから、事前準備こそ重要です。そこで現実性をもたせるために、「事前ヒアリングシート」(図表1)を作成して、実際に提案をするオーナーの情報を埋めていきます。そして、オーナー役となる人に、事前にこのシートを見てもらい、オーナーになりきって演じてもらいます。
     その後、ロールプレイングを始めるのですが、終了後のフィードバックの方法こそ重要になります。先輩社員から見たら、経験の浅い後輩社員は、改善点ばかり目についてしまい、良い点にフォーカスされません。そうすると、弱点ばかり言われるため、自信をなくして、個性や伸びしろをなくしてしまうことになってしまいます。そもそもロールプレイングは、営業スタッフのスキルアップのための教育であるのに、良いところを褒めず自信を喪失させては、本来ある潜在能力も引き出すことができなくなってしまうのではないでしょうか。

  • チェックシートを活用して、課題を可視化する

     そこでフィードバックに活用したいのが、「チェックシート」(図表2)です。これがあれば、ざっくりと感覚で伝えてしまいがちなフィードバックを、より具体的に説明できるようになります。プレゼンの内容、話の進め方など数十種類の項目を5段階で採点できるようにして、できている部分とそうでないところを数値化しましょう。さらに「良い点」と「改善点」をそれぞれ書き出して、1つずつ丁寧にフィードバックして理解を促します。
     ここでのポイントは「良い点」をできるだけ見つけだして、“褒めてあげる”ことです。伝える順序は、①良い点を褒める②改善点を伝える ③良い点を褒める、です。誰しも自分自身を否定されることは、気持ちの良いものではありませんが、このやり方であれば、認めてもらった喜びがある分、素直に改善点を飲み込んでもらうことができるのです。
     また改善点においては、どうしたら良くなるのかという具体的方法を、ベテランの先輩が「一緒に考える姿勢」が重要です。このように、営業のトレーニングである「ロールプレイング」も、ちょっとした工夫で成果へ近づけることができるのです。

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