法律相談

月刊不動産2009年3月号掲載

手付金と内金

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

手付金と内金とはどのように異なるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.手付金は、売買契約の締結に際して、相手方の債務不履行の有無を問わず解約権を認める目的をもって、あるいは、相手方に債務不履行があった場合の損害賠償の予定あるいは違約金として、買主から売主に対して支払われる金銭です。手付金を支払っても、当然に売買代金の一部が支払われたことにはなりません。

     これに対し、内金は、買主から売主に対して代金の一部前払の趣旨で支払われる金員です(東京地裁平成14年9月20日判決)。

    2.不動産の売買契約では、通常、契約締結から一定の期間を置いて残金決済・引渡しが行われます。契約の時点と残金決済・引渡しの時点とが異なり、その間法律関係がやや安定しないため、契約時において、買主が売主に一定の金銭を手付金として支払う慣行があります。売買代金の5%から20%の間で決められることが多いようです。

     手付金には、まず、その授受が売買契約の成立を表す証約手付の意味がありますが、このほか、①解約手付、②違約手付の2つの性格があります。

     ①解約手付とは、手付金の授受により、当事者に解約権を留保させるものです。解約手付として手付金の授受がなされていた場合には、契約成立後であっても、一方当事者だけの意思によって契約を解約することができます。手付金が解約手付である場合には、売主からは手付金の倍額を返還することによって、また買主からは手付金を放棄することによって、各々相手方の承諾を得ずに、かつ、損害賠償をすることなく契約を消滅させることができるわけです。

     民法は「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる」と定めています(民法557条1項)。この条項は、手付金には一般的に解約手付の性格があることを定めると同時に、当事者の一方が履行に着手した後は、手付放棄あるいは倍返しによる解約をすることができないことを定めるものです。

     当事者の一方が履行に着手した後には解約ができなくなるのは、履行に着手して準備を開始した者に不測の損害を被らせることのないようにする趣旨です。そのため、自ら履行に着手した当事者が、相手方の履行の着手前に解約をすることは可能であるとされています(最高裁昭和40年11月24日判決)。

     次に、②違約手付とは、契約違反による契約解除の場合において、買主違約のときには手付金が違約金として没収され、売主違約のときには手付金を返還しなければならないとともに手付金と同額を違約金として支払わなければならないという意味をもつものをいいます。多くの売買契約書では、手付金に違約手付の意味をもたせています。

    3.買主から売主に金銭が授受された場合に、手付金であるのか、内金であるかは、売主と買主の合意によって決められます。手付金であれば、解約手付や違約手付の意味をもつけれども、当然に売買代金が支払われたことにはなりません。他方、内金であれば、解約権留保や違約金の意味はありませんが、売買代金の一部の支払があったという法律効果があります。売主と買主は、授受される金銭が、手付金なのか内金なのかを、明確にしておく必要があります。

     もっとも、手付けも、最終的には、売買契約書において、「手付金は、残代金支払のときに売買代金の一部に充当する」などと定められ、売買代金の一部に充当されるのが一般的です。

    4.宅地建物取引業法では、手付金も内金もいずれについても、売主に物件を引き渡せないなどの不測の事態が生じた場合に備え、授受された金銭が確実に返還されるようにする目的をもって、保全の措置についての定めがなされています(41条・41条の2)。

     また宅建業者としては、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2をこえる額の手付金を受領すること(39条1項)、及び、手付について貸付けその他信用を供与して契約の締結を誘引すること(47条3号)について、いずれも禁止されている点も、忘れてはなりません。

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