法律相談

月刊不動産2005年8月号掲載

手付放棄により解除されたときの仲介報酬

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社が仲介して売買契約が締結になりましたが、契約成立後、買主の手付放棄により売買契約が解除されました。仲介報酬を請求することができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 売買契約が手付放棄によって解除になった場合であっても、業者は仲介報酬を請求することができます。ただし約定の報酬額全額を請求できるとは限りません。手付放棄のケースでは、約定の報酬額ではなく、減額された請求しかできなくなる場合が多いと考えられます。

     業者が売買契約の仲介報酬を請求するためには、
     (A) 依頼者と業者の仲介契約、
     (B) 仲介契約に基づく業者の仲介行為、
     (C) 仲介行為の結果による依頼者と相手方との売買契約の成立

    という3要件が必要です。原則として、この3要件を満たさない場合には報酬を請求することができませんが、他方でこの3要件を満たしていれば、仲介報酬を請求できます。手付放棄など売買契約当事者の事情により売買契約が決済にまで至らず消滅したとしても、仲介報酬の請求は可能です。

     平成12年11月、売主と業者の間で専任媒介契約が締結され、平成13年2月、業者の仲介により、売主と買主との間で売買代金5億2,455万円とする売買契約が成立し、売主は買主から手付金2,000万円を受領したけれども、その後決済がなされないうちに平成13年3月に買主が手付金を放棄することにより売買契約が解除されてしまったという事案があり、業者の売主に対する仲介報酬が争いになりました。

     この事案において、裁判所は、「仲介契約に基づいて業者が行うべき事務の中心的な内容は、仲介により依頼者と第三者との間に売買契約を成立させることであり、本件においては業者の仲介によって売主と買主との間に売買契約が成立している。その後手付金放棄により売買契約は解除となったけれども、いったん有効に成立した売買契約が手付金放棄により解除されたからといって、媒介契約に基づく報酬請求をすることができないと解することは相当ではない」として業者の報酬請求を認めています。(福岡高裁那覇支部平成15年12月25日判決)。
     ただし報酬額については、次のように述べて約定額(売買代金の3%+6万円)の全額の請求はできず、1,000万円が相当であると判断しました。

     「一般に仲介による報酬金は売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められている。特に債務不履行による解除や合意解除の場合と異なり手付金放棄による解除の場合には、売買契約締結に際して解約手付が授受されていること、すなわち各当事者に解約権が留保されていることは、仲介にあたった業者も当然認識していたはずであるから、仲介業者である業者としては、手付放棄又は倍返しによる解除の可能性があることは念頭におくべきであるし、業者にとってそのような場合にそなえて報酬の額についての特約を予め媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。

     他方、依頼者である売主としては手付金の放棄により売買契約が解除されたような場合には仲介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常であると思われる。
     したがって手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬の額についての合意は適用されないと解するのが当事者の合理的意思に合致するというべきである。
     そうすると本件媒介契約に基づいて業者が売主に請求できる報酬の額については当事者間の合意が存在しないことになるけれども、報酬について特約がない場合でも、仲介業者は相当報酬額を請求できる(商法512条)。そこで本件において相当な報酬額について検討するに、本件に表れた一切の事情を考慮すると、本件で業者が売主に請求することのできる報酬額としては1,000万円(消費税47万6,190円を含む)をもって相当と認められる。」

     売買契約が決済にまで至らなかった場合の報酬額は業者の寄与度に応じて定まります。ご質問のケースにおいても、業者としてどのような仲介行為を行ったのか、及び、その仲介行為が契約成立にどの程度役立ったのかが勘案され、報酬額が決められることになります。

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